医療保険制度の行方はどこへ  (2010.11.9)

目白大学教授
宮武 剛氏

日本医学ジャーナリスト協会の月例会で、元毎日新聞社副論説委員で、目白大学教授の宮武剛氏が「新政権下の医療保険制度の行方」と題して講演した。厚生労働省はこのほど13年4月創設予定の新高齢者医療制度の「中間まとめ」を決定したが、これは宮武私案が土台となっている。

 

 

 


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社会保障制度全般の課題は、人口変形縮小社会、つまり少子化・長命化・母権化の3化け現象にどう対処するかである。出生率が下がり、高齢化が進み、子育てしながら女性が働ける社会環境をどう整備するかが喫緊の課題となっている。

 

 

 


「後期高齢者医療制度」は、自由民主党政権で誕生し、08年4月1日に施行された。その名称は悪評さくさくで、時の野党・民主党はその廃止を強く訴えていた。しかし政権与党となった民主党(長妻厚相)は、制度の廃止は当面先送りにして、時間をかけて新制度を策定して移行する方針を定めた。そこで「高齢者医療制度改革会議」を設置して検討を開始した。8月に発表された「中間まとめ」によると、新制度は現行の後期高齢者医療制度を廃止し、現役サラリーマンと被扶養者は被用者保険に、それ以外の高齢者は国保に加入するということを柱にしている。そして国保の高齢者の財政運営は都道府県単位で行い、将来、全年齢を都道府県単位に移し、国保の広域化を進めるとなっている。しかし公費や制度間の財政調整を含む費用負担のあり方などは不明で、多くの課題は引き続き検討することとなっている。

 

 

 


医療と介護の中、長期的な展望、つまり病院頼み、施設頼みからいかに脱却するかも大きな課題である。昭和30年頃までは、自宅死が80%であったのが、現在では10%を切ろうとしている。相対的に病院死が増加してきている。

 

療養病床の大幅縮小と受け入れ先づくりで介護保険適用13万床(直近12万床)を12年3月全廃(法律)、
医療保険適用25万床(直近23万床)→当初案15万床程度の存続を見直しで22万床存続(うちリハビリ用2万床)となっていたのを、新政権は当面削減計画を凍結した(一般病床などの削減も掲げていない)。

 

 

 


自宅、老健施設、グループホーム、特養、ケアハウス、有料老人ホーム、高齢者向け有料賃貸住宅、高齢者専用賃貸住宅などに医療機関のどこで介護して、どう看取るのかが大きな問題である。

 

 

 


厚労省は「地域包括ケア研究会」で、あらゆる角度からの検討を重ねている。社会保障国民会議では

 

①現状のまま


②ゆるやかな改革


③欧州並み


④欧州以上

 

の4つのシナリオで介護・医療の将来像(25年)を試算している。07年現在の総費用は40兆円だが、25年になると

 

①86兆円

 

②92兆円


③91兆円


④92兆円

 

という総費用がはじき出だされている。


(寿)