東京歯科大学市川総合病院角膜センター
角膜センター長
篠崎 尚史氏


 日本医学ジャーナリスト協会の月例会で、東京歯科大学市川総合病院角膜センター長の篠崎尚史先生が「WHOと臓器移植」と題して講演した。先生はWHOのエキスパートアドバイザリーパネルであり、国際移植学会の倫理委員もつとめている。


◆          ◆

 

 歴史をひもといてみると、紀元前400年に鼻や耳の損傷患者に対して頬の皮膚を移植したとの記述が残っている。また金属製の義足を作ったとの記録もあるが、真偽のほどは定かでない。

 

 1906年、死体からの角膜移植に成功したとの報告がなされている。その後、第二次世界大戦後に、精巧な針とシルク糸が開発されるまで、報告はない。


 1964年に初の腎臓移植(東京大学)、初の肝臓移植(千葉大学)が行われた。世界初は前年に肝臓、肺臓が行われている。

 

 世界初の心臓移植は1967年に行われたが、日本では1968年(札幌医大)であった。

 

 和田教授の執刀だったが、


①透明性の欠如


②記録の欠如


③利益相反などで、社会的医療不信の元となってしまった。

 

 現在の日本の移植技術のレベルは高い。心停止下という悪条件の中で、海外の脳死下と同じ成功率をおさめている。コントロールも実に上手である。

 

 新しい臓器移植法が国会に上程されている。海外のオプティングイン方式と違ってアウトとなっている。ドナーカードも自由配布制なので、どれだけの人が持ってくれるか疑問である。しかも日本は生命倫理基本法を制定していない。実にあやふやな状態といえる。


 過去10年間で、もっとも臓器提供率を増加させたのはスペインである。WHOも国際移植学会も、それぞれ加盟国にスペインモデルを推奨している。ドナーアクションプログラムなど、日本も大いに学んで参考にすべきだろう。

 

 2004年の統計だが、世界の臓器提供者数(百万人当たりのドナー数)は、スペイン34・6人、

 

 ラトビア、アイルランド、ポルトガル、オーストリア、ベルギー、イタリー、フィンランド、フランス、チェコと続いて、米国が20・2人。

 

 15か国を省略してオーストラリア10・8人。

 

 さらに9か国を省略して日本はなんと0・75人である。

 

 世界の動向をふり返ってみると1960年代に臓器移植が開始され、70年代は免疫抑制剤の発展とともに臨床成績が向上し、80年代には成人病による適応患者の急増と生体移植と臓器売買が横行した。そして87年にWHOの総会でガイドラインが制定された。これは臓器売買を防ぐのが目的であった。

 

 2005年WHOの総会で改定することが決議され、08年5月の採決、ことし決議することになっていたが、新型インフルの騒ぎで来年に持ち越しとなってしまった。内容は従来の倫理規定から、国際移植学会や各国政府との連携により、実効性のある規定となっている。

 

 2008年4月に国際移植学会、国際泌尿器科学会が合同でイスタンブール・サミットを開いた。詳細にわたる宣言を採択し、提案を行った(省略)。「死体臓器提供を増やすというニーズに応えるために」の4項目は次のようである。

 

一、政府は、保険医療施設、専門家集団、非政府組織と協力して、死体臓器提供を増やすために適切な行動をとるべきである。死体臓器提供に対する障壁や抵抗感を取り除く手段がとられるべきである。

 

二、死体臓器提供や死体臓器移植が確立されていない国々では、各国の死体臓器提供の潜在的な可能性を高めるために、死体臓器提供を開始させ、移植医療環境を整備する法制化を実現すべきである。

 

三、死体臓器提供が開始されている全ての国々において死体臓器提供と死体臓器移植の治療の可能性を最大限に実現されるべきである。

 

四、死体臓器移植プログラムが十分整備された国々においては、臓器提供の努力をさらに改善しようとしている国々と情報、専門家、技術を共有することが望まれる。

 

(寿)