梅雨の晴れ間に恵まれた6月25日、東京ビッグサイトで開催された『第17回産業用バーチャルリアリティ展(IVR)』。会場に一歩足を踏み入れると、3D動画、モーションキャプチャ、HUD、立体出力モデルなどを展示するブースが所狭しと並んでいます。


 

 

 

 


 その展示内容は、医薬品業界の展示会では見られない“派手”なもので、ミーハーな視点から誤解を恐れずにいうならば「見ごたえ十分の展示会」。そんな内容だからなのでしょうか、企業関係者以外の見学者や学生なども数多く来場し、最新の3DCGや各種体験ブースに張り付いていました。


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 入口近くにブースを置いていたソリッドレイ研究所<http://www.solidray.co.jp/>は、手術者目線録画システム『オペアイ』を展示。どんなシステムかはこの写真を見ていただければ一目瞭然でしょう。一言でいえば「ドラゴンボールのスカウターみたいなやつ」です。といっても、装着した人が特別なものを見られるわけではありません。右目からの視点はファインダーを通したような感じで、別段変わったところはありません。ただ、装置を通して外部モニターに映し出される映像は、装着した手術者の視点のもので、これがリアルタイムに伝送、録画(解像度は800×600pixel)されます。


 

 

 こうしたシステムは、すでに数多くのタイプが開発されていますが、同社によれば「手術映像に機能を絞って安価、かつコンパクトにまとめたところが特長」とのこと。装着時の違和感が大きいこと(これは筆者の頭の大きさに由来しているのかも……)や、視点とカメラの同期調整にコツがいることなど、まだまだこなれていない点もあるように感じましたが、こうしたシステムが標準クラスのノートPC程度のスペックで動くまでに一般化しつつあることには素直に驚かされました。


 なお、IVRには59社と韓国パビリオンという60余の展示がありましたが、実のところ医療系の展示は同社の『オペアイ』のみでした。


 3D関係の展示が大半を占めるなかで異彩を放っていたのが、産業技術総合研究所<http://www.aist.go.jp/index_ja.html>の展示です。他社より心持ち小さめのブースで展示されていたのは『体感型インターフェース』のデモ。「指先サイズのキューブ」と「釣り竿タイプのグリップ」というインターフェースを使って、バーチャル空間の触力覚を体感するものです。振動機能付ゲームコントローラー(プレイステーションのデュアルショックやニンテンドーDSの振動カートリッジなど)に似たようなものですが、こうしたコントローラーとの一番の違いは、「力の掛かる方向がハッキリわかる」という点です。


 振動機能付ゲームコントローラーは、ゲーム内の動きに応じてコントローラー内臓のモーターが回り、プレイヤーに振動という形でフィードバックします。この振動は結構複雑な動きを再現することができ、例えば車のエンジンをかけた場合には、ギアに応じて振動が細かに変わりますし、銃を撃つ場合でも大口径であれば大きな振動で、機関銃であれば小さく細かな振動を起こします。


 ただ、これらの振動は力の方向をハッキリと示すことはできません。「右に振られるとき」「上に持ち上げられるとき」「重いものを持ったとき」に、それぞれ右、上、下方向に荷重するという動きは再現できなかったわけです。


 今回展示されたインターフェースは、こうした力の方向がハッキリと感じられるという点で画期的なものです。動作原理自体は振動付コントローラーとあまり変わらないようなのですが(インタフェース内の小型モーターが回転、振動する)、その回転量を微妙に調整することで人の触覚に“錯覚”を起こし、「上に持ち上げられる」「下に引っ張られる」という感覚を再現するのです。釣り竿タイプのグリップでは、3Dのフル体感型釣りゲームを使い、その実力を如何なく発揮していました。上下左右に振られる感覚は、これまでの体感型インターフェースにはないリアルなものでした。



 IVRと同時開催されていた「第19回設計・製造ソリューション展」では、広陽商工<http://www.koyoshoko.co.jp/>の『ポーラスアルミ』が一際注目を集めていました。


 このポーラスアルミとは、全面に無数の微孔により空気透過性を持ったアルミ製品のこと。一言で言えば「スポンジのようなアルミ板」です。写真では全くわからないと思うのですが、このアルミ板のうえにある円形の樹脂塊はブロック崩しのボールのように板上を動いています。そのカラクリは、アルミ板の下からの送風によって、ほんの少しだけ浮かせて動かすというものです。遠くから漠然と見ていると何一つ凄みがありませんが、近くで見るとリニア動力のようなリードもなく、底面に車輪やボールのようなものも見当たらず、見学者の中からは「一体どうやって動いているんだろう?」と不思議がる声がチラホラと聞こえていました。



 このポーラスアルミが、医薬品業界においてどのように使われる可能性があるのか? ポーラスアルミのシステム開発を担当している北斗<http://www.hkt.co.jp/>によると、「非接触でモノを動かすことができるので、フィルム包装時に傷がつかないという利点があります。また、これを活用した真空成形技術によりクオリティの高い錠剤シートの製造などにも応用できるでしょう」とのことです。


 こうしたバーチャルリアリティの最新技術を見ていくと、近い将来には——『オペアイ』のようなカメラを使って高い技術を持った医師の“模範手術”を録画。この動画を元に非接触3D計測機器により皮膚、血管、内臓などの3Dデータを取得。このデータをベースとした手術シミュレーションを作成し、そのインターフェースには『体感型インターフェース』が使われ、メスの切り込みや血管、内臓の重みやさわり心地までが再現されるようになる——のかも知れません。実際には高いハードルがありそうですが、そんな夢を抱かせるような展示内容でした。(有)