デフレビジネスモデルの勝者が普通の会社に成り下がる日——。デフレモデルの勝者といえば、「ユニクロ」や「しまむら」が代表格だが、このところこの2社の業績が怪しい。物価が下がり続けるデフレ状態のなかで円高と人件費の安い中国を活用し、低価格衣料を製造販売し支持されてきた両社。しかし、ユニクロは2016年8月期第1四半期(15年9〜11月期)は国内ユニクロ事業不振が響いたうえ、急拡大していた中国事業が失速して大幅減益となり16年8月期通期業績も下方修正した。しまむらも昨年12月に発表した16年2月期第3四半期(15年3〜11月期)の決算は経常利益が前年同期比横ばいにとどめたが、15年2月期、14年2月期と減益が続いている。


 ユニクロは円高や中国での人件費高騰を背景に製品価格の相次ぐ値上げで質を維持してきた。しかし、それが徒となった。「消費者は質に対して価格を安く感じなくなった」(証券アナリスト)という声も聞かれ始めている。


 ユニクロを展開するファーストリテイリングの株価は年明け1月8日、前日比3000円近く安い3万6180円まで売り込まれた。終値は結局、同910円安の3万8140円まで回復したが、前日の7日に発表された減益決算が嫌気された格好だ。


 決算では暖冬が背景にあったとはいえ、国内ユニクロ事業だけでなく、これまで急ピッチで拡大し好調とみられていた中国事業が減益に転じ、海外での稼ぎ頭に黄信号が灯ったことが、ネガティブサプライズとなった模様だ。


 第1四半期(15年9〜11月期)の国内ユニクロ事業の営業利益は前年同期比▲12.4%の448億円、また海外ユニクロ事業の同▲14.2%の208億円だった。東京証券取引所で会見したファーストリテイリング上席執行役員の岡崎健氏は、国内減益の理由について、暖冬で冬物衣料が不振だったことに加え、品番数が増えすぎて訴求する商品の焦点がぼやけてしまったことなどを指摘した。


 しかし、ある百貨店の幹部はユニクロの業績悪化に対して別の見方をしている。「相次いだ値上げで消費者にとってコストパフォーマンスが悪くなっているのではないか」と。


 ファーストリテイリングはこれまで円高や中核の生産拠点である中国で人件費が高騰しているため、14年と15年の2度にわたって主力商品の値上げを実施した。14年は平均5%だったが、15年は同10%と2ケタの値上げに及んでおり、商品によっては計15%程度上がっているものもあるとみられている。


 5000円の商品ならば700〜800円の値上げとなり、消費税を加えると6000円と超える。ファーストリテイリングの説明では同じ商品を値上げしたのではなく、「品質を見直して素材を変更したりしている」として品質を上げる取り組みを強調しているというが、「消費者にとっては値上げされた6000円の商品は、今までは5000円で買えた商品という意識だけが残り、割安感を感じなくなってしまっているのではないか」(同)という。


 ファーストリテイリングでは、このところいわゆる定番価格では売れず、セール時に売り上げが集中し、粗利益率を落とす展開が続いているのは確か。消費者にとっての値ごろ価格は、セール価格の時だけになってしまっているのかもしれない。


 ファーストリテイリングは、中国での人件費の高騰で中国に依存した生産体制を見直し、アセアン各国に拠点を設けている。しかし、熟練した中国のワーカーに対しアセアンでの生産はまだ生産性が良くないと言われ、必ずしも結果としてコストダウンにつながっていない可能性もある。


 デフレ→円高→低価格という勝利の方程式がインフレ→円安→安くないと逆に回り始めている。しかし、質を落としてまた元の価格体系に戻すこともできないジレンマに陥っている格好だ。


 一方のしまむら。同社の決算も安倍晋三政権の経済政策であるアベノミクスと軌を一にするかのように前期まで2期連続の減益。今期は増収に引き戻す計画だが、暖冬で冬物衣料が不振だったとみられ、3期ぶりの増益は微妙な情勢だ。


 しまむらはユニクロと違い自らが製造して販売する形態ではなく、アパレルメーカーから仕入れて販売するやり方。ユニクロとの違いは品ぞろえがバラエティで選ぶ楽しみを提供しているといえる。


 標準的な売り場面積の店舗で約4万〜5万品目を扱っている。しかし、業績の低迷が続くなかで、同社も商品や価格政策の抜本的な見直しに乗り出す。商品アイテム数を3割絞り込み、全体の在庫数量も2割削減するという方針だ。アイテムの整理で売り場をスッキリさせ、見やすく選びやすい売り場に改革するという。同時に品質を上げた高めの価格帯の商品も拡大、単価の引き上げを図る計画となっている。同社もいくら仕入れ商品とはいえ円安で仕入れ単価が上がっており、このままでは収益を圧迫されるのみ。アイテム数の整理と在庫の削減で効率化を図り、コストダウン。値上がり圧力を吸収していく戦略に転換したといえる。


 これまで快進撃を続けてきたデフレビジネスモデル。突破口を見い出せるか。正念場を迎えているのは間違いない。(原)