よく眠り スッキリめざめた 講演会
淀川キリスト教病院(大阪市)の柏木哲夫先生の川柳である。学術講演会などでは、スライドやパワーポイントがよく使われる。そのたびに照明が暗くなる。場合によっては消してしまうこともある。そうなると格好の睡眠環境となり、あちらこちらで船を漕ぐ姿がみられるようになる。
食卓で 愚痴を聞いてる パンの耳
赤ちゃんの 真剣な顔 ウンチだな
これも柏木先生の句である。なかなかうがったいい句である。先生が川柳を詠むようになったのには、それなりの理由がある。担当されていたのはホスピス部門で、3千人近い人を看取ってきた。普通なら、医師というのは病気や怪我を治すのが役目である。それが確実な死に向かって時を刻んでいる人たちを、毎日見ているわけである。どこかに救いを求めたくなる。柏木先生の場合は、それが川柳を作ることになった。
東京・築地の聖路加病院のホスピス部門を見学したことがある。日本医学ジャーナリスト協会の有志が厚木にある施設を訪れた。入所者と顔が合わないように、担当者が気を配ってくれて、一通り見学が終わり、会議室での質疑応答となった。筆者が一番印象に残ったのは、平均入所日数が約30日ということと、若い看護師さんたちが、施設の奥まった部屋で号泣することがあるという話であった。親身になってお世話をしたのに、すぐに別離の時がくるのである。泣かずにはいられない状況である。
食パンとあんパンとぶどうパンが歩いている。後からクリームパンが「オーイ」と声をかけた。振り向いたのは3つのパンのうち、どれだろうというなぞなぞがある。答えは食パン。耳があるから。
出してこいといわれて、入れてくるものはなあに。答えは手紙。
せっかく別れさせたのに、一緒にしないと使えないものはなあに。答えは割り箸。
他愛のないものばかりだが、小学生の間で流行っているなぞなぞである。
ある落語家から聞いた話。小学校で落語を一席つとめての帰りがけ、一人の男の子に呼び止められた。
「おじさん、おじさん。豚と馬が競争してどちらが勝ったか?」。
「豚と馬なら、馬だろう」。
「ワーイ、残念でした。“トンカツ”といって、豚が勝ったんだ」。
隣の男の子が「豚と馬が競争してどちらが勝ったか?」。
「いまこの子がいったように、豚が勝ったんだろ」。
「ワーイ、残念でした。トンカツ食べて“ウマかった”、だよーん」。
シルバー新聞の川柳欄から面白いものを。
起きたけど 寝るまでとくに 用がない
立ち上がり 用を忘れて また座る
手をつなぐ 昔はデート 今介護
クラス会 食後は薬の 説明会
妖精と 呼んでた妻が 妖怪に
誕生日 ローソク吹いて 立ちくらみ
------------------------------------------------------------
松井 寿一(まつい じゅいち)
1936年東京都生まれ。早稲田大学文学部卒業。医療ジャーナリスト。イナホ代表取締役。薬業時報社(現じほう)の記者として国会、厚生省や製薬企業などを幅広く取材。同社編集局長を経て1988年に退社。翌年、イナホを設立し、フリーの医療ジャーナリストとして取材、講演などを行なうかたわら、TBSラジオ「松チャンの健康歳時記」のパーソナリティを4年間つとめるなど番組にも多数出演。日常生活における笑いの重要性を説いている。著書に「薬の社会誌」(丸善ライブラリー)、「薬の文化誌」(同)などがある。