政治評論家
有馬 晴海氏


「自民党は将来なくなるでしょう。もちろん来年の参議院選挙は『民主党vs自民党』という構図でしょうが、その結果如何では分裂・解消してしまう可能性は大きいのではないでしょうか」

 

 と、ショッキングな話題から始まった今回の出逢いDI。語り手は、現在、テレビのコメンテーターとして各局で引っ張りだこの政治評論家・有馬晴海氏。政権交代後の日本政治の行方についてインタビューした。
(以下、敬称略)


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—— 有馬さんが命名した<麻垣康三>(自民党総裁候補だった麻生太郎・谷垣禎一・福田康夫・安倍晋三の4名を指す造語)の最後の一人でもある谷垣総裁が誕生したわけですが、彼の手によっても自民党の復活は難しいと。


有馬—— いま、自民党がやっていることは、民主党のスキャンダル探しですよ。民主党政権の自滅や致命的なスキャンダルを待って反攻するということなのでしょうが、政策論争という“正面攻撃”の手については、正直、万策尽きたということです。

 

—— 今回の選挙結果については、どのように分析されていますか?

 

有馬—— 森内閣当時の自民党への支持率は7〜8%でした。しかし、「自民党をぶっ壊す」をモットーに発足した小泉内閣への支持率は80%近くに達しました。いまにして思えば、この時点で自民党の政治生命は終わっていたのかもしれません。戦後の焼け野原を復興させたのは自民党と戦後世代です。その貢献は明らかです。しかし、戦後50年を経て、国民の意識は変わりました。戦後復興時のイケイケドンドンから、より個人の幸せを追求する方向へとシフトしていったといえます。今回の総選挙の結果は、こうした意識を反映したものであり、「自民党ではダメではないか?」という有権者の回答ではないでしょうか。

 

—— 有権者に見放された格好の自民党ですが、では、民主党の対抗馬となる二大政党の一角はどのような党になるとお考えですか?

 

有馬—— 政界再編の結果、いまとは違った形の二大政党制になるのではないでしょうか。
「この国には政権交代可能な健全な保守の二大政党が必要」 小沢一郎の言葉です。この言葉を掘り下げてみると、“健全な”というのは意見が同じということです。つまり、いまの民主党、自民党のように意見の異なる議員が呉越同舟するのではなく、ある程度同じ政治信条(意見)を持つ議員による党に再編すべきという考え方です。

 

—— 自民党でいえば古賀誠と安倍晋三、民主党でいえば鉢呂吉雄と前原誠司では政治信条が水と油ですからね。どちらかというと、自民党古賀派は民主党主流派に近いでしょうし、民主党反主流派は自民党町村派に近いように見えます。

 

有馬—— そしてリベラルではなく保守であることもポイントでしょう。保守党とリベラル党による二大政党制では、政権交代の変化が劇的すぎますから。つまり、「議員(党員)の政治信条(意見)が一致する二つの保守政党」による二大政党制の実現が小沢一郎の政治目的ということです。

 

—— ポイントは「メンバーの意見が同じである」ことと、「二つの政党は政治理念が違っても保守である」ということですね。

 

有馬—— そうですね。なぜ、小沢がこのようなことを考えるようになったのか? そのカギは16年前、自民党を“追い出される形”で出たことにあります。そのときに小沢は、「何としても二大政党をつくらねばならない!」と考えました。実利的なことからいっても、二大政党の片一方のボスにならなければ復権できないわけですから。

 

—— 自民党に対する怨みもありそうですよね。

 

有馬—— その通りでしょう。ですから、「自民党のない二大政党制の実現」といった方が正確かも知れません。小選挙区比例代表制という現在に通じる選挙制度を導入し、野党勢力が結集しやすい環境を整え、結果、民主党は反自民の受け皿となりました。実のところ、民主党と自民党では政治信条に大きな違いはありません。

 

—— 確かに大枠では両党とも保守政党ですね。社民党のように「自衛隊反対」ではないし、共産党のように「消費税廃止」でもないですから。

 

有馬—— 実際、自民党の公募を受けたのに落ちてしまい、民主党の公募を受けて選挙に出たという議員も数多くいます。つまり、いまの選挙制度で政治家になるには、「この地盤で出たいなら、あっちの政党でしか出られない」「この政党で出たいなら、あっちの地盤でしか出られない」となるわけです。

 

—— どの選挙区でも二大政党のライバルが立つわけですから、二大政党間での連立や新党結成のための分離は難しいですよね? いうなれば「同じ東京一区の与謝野馨と海江田万里が一緒の党になれるのか?」ということですから。となれば、自民党が自壊する可能性も少ないと思うのですが……?

 

有馬—— そこでカギを握るのが小沢グループです。この総選挙により小沢チルドレンだけで150人。他のグループのシンパも含めると民主党内で200人ほどが小沢の“手駒”となると見ています。3年前の民主党代表選での小沢の得票数は119票。一方、菅直人は72票でした。このうち約20票が菅グループで約50票が前原や野田のグループです。選挙に大勝し求心力を得た結果、この70票の大多数は小沢シンパとなっています。もし、小沢が党を割ると決断した場合、衆議院議員だけでも党の2/3を持っていけるということです。

 

—— 小沢チルドレンであれば、3期、4期と同じ地盤で戦っている中堅以上の議員よりも地盤を“動かしやすい”から選挙区調整もやりやすく、他党と連立・合同も実現しやすいというわけですね?


有馬—— 実は福田内閣のとき、小沢が大連立を仕掛けましたが、これも自民党と民主党の大連立により、ガラガラポンで両党の歪を解消するという狙いがありました。結局、小沢についていく人数が少なく失敗したのですが……。しかし、いまは状況が違います。繰り返すようですが、小沢の目的は「政権交代可能な健全な保守の二大政党」を作ることです。この目的を達成するために政界再編に打って出る可能性は十分あるでしょう。

 

—— なるほど。党内で意見の異なる勢力——民主党には旧社民党グループと松下政経塾グループ。自民党には町村派と古賀派——を抱えている今の民主党や自民党は、健全な保守の二大政党ではない。だから、大連立なり党を割るなりして、健全な保守の二大政党に“整理”するということか……。

 

有馬—— そのわけ方の軸が「外交政策」なのか「経済政策」なのかは注視していく必要があります。

 

—— 親米vs親中。大きな政府vs小さな政府。金融重視vs財政重視……軸はいろいろありそうですね。ただ、小沢にとっては「政界再編で常に主導権を握れる200人の手駒を持った」ことと「自民党が結党以来の大敗北を喫した」ことによって、初めて自身が目指す二大政党制実現の舞台が揃ったというわけですね。


有馬—— 小沢が党を割って政界再編が実現したときには、少なくともいまの民主党vs自民党という構図にはならないはずです。民主党も自民党もその名を残していないことでしょう。結局、衆議院で270議席を超えてしまうと、選挙区調整の問題で常に分裂含みの可能性が出てくるわけです。これはどの党であってもいえることです。

 

—— 次の総選挙は、例えば「進歩党vs民政党」みたいな対決になっているかも知れないわけですね。本日はお忙しいなか、どうもありがとうございました。

 

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 民主と自民でガラガラポン——の政界再編は、政治をわかりやすくするためにはとても意義のあることだ。民主党内の“小沢党”が政界再編をリードし得るという予測も、十分な説得力があるように見える。

 

 しかし、総選挙から一カ月以上経つにも関わらず臨時国会が開かれず、株価はご祝儀相場もなく下落を続け(他国の市場は騰がり続けている)、円高によりエルメスのバッグは安くなっても国内雇用は一層不安定化し、埋蔵金も無駄な財源も全然見つからない……という10月上旬時点の政治状況を考えると、自民党の自壊以前に鳩山政権の行方が心配になってくるのも事実だ。

 

 マスコミの論調から株価、為替まで、まるで16年前の政権交代当時をなぞるように動くなか、鳩山政権も細川政権と同じ轍を踏んでしまうのか? あるいはここから奇跡的な逆転劇を見せてくれるのか? 有権者が介入できるチャンスである来年の参議院議員選挙まで、その行方を見守っていきたいものだ。