横浜ほうゆう病院
院長
小阪 憲司氏
エーザイ㈱とファイザー㈱両社が、アルツハイマー型認知症に関するプレスセミナーを開催した。横浜ほうゆう病院の小阪憲司院長が「この10年で認知症診療はどのように変わってきたか」と題して、演述した。
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高齢者の機能はどうしても衰える。したがって認知症も老化とともに増えるのは仕方のないことだといえる。しかし発症をなるべく遅らせる、さらには治療に有効な薬剤の開発に取り組むことは大事である。
95年に認知症高齢者数は126万人だったが、05年189万人、10年には226万人に増えてきている。20年には292万人と推計されている。年齢別出現率をみると65〜69歳は1・5%、70〜74歳3・6%、75〜79歳7・1%、80〜84歳14・6%、85歳以上は27・3%で、4人に1人が認知症である。かつては血管性認知症が多かったが、現在では様変わりしてアルツハイマー型50%、レビー小体型20%、脳血管性型20%、その他10%となっている。
認知症診療を大きく変えた要因がいくつかある。まず高齢者社会の出現で認知症患者が増加し、社会問題となった。多くの人に認知症が知られるようになった。介護保険制度・成年後見制度が導入され、大きな転機となった。認知症の研究が進化し、診断法が進歩した。とくに脳画像をとれるようになったことが大きい。治療が可能になった(ドネペジル=アリセプト)の登場。認知症医療が重視されるようになった。福祉も充実してきた。介護問題が深刻化したことから、介護従事者の会や家族の会などの活動が活発化した。マスコミもよく取り上げるようになった。
76年に私が研究してきたレビー小体型についての診断基準ができるなど、認知症診断が進歩してきた。どの認知症にもより精度の高い診断基準が発表され、画像診断が著しく進歩した。分子生物学が進歩して、認知症の病態の研究が進展した。新たな認知症の病態が加わり関心が高まった。薬物療法が可能になり、早期発見・早期診断・早期介入、そして治療が重視されるようになった。アリセプトの投与は3㎎、5㎎に加えて10㎎が可能となり、介護が更に大変になる時期を遅らせることができるようになった。
患者さんやその家族の人たちへの支援体制もよい方向へ変化してきている。なんといっても介護保険制度と成年後見制度が導入されたことが大きな影響を与えることになった。それによって介護従事者やケアマネジャーの意識が変化し、活動が活発化した。マスコミの報道も増えた。コンピュータなどの普及で、患者・家族たち自身の認知症問題への知識が高くなった。
今後の認知症の医療は、地域連携とレベルの向上が眼目であり、治療薬の開発が急務であり、介護など支える体制の強化が必要である。地域においては、医療と福祉の連携、かかりつけ医・サポート医と専門医の連携を推進し、認知症疾患医療センターの増設が必要となる。全国でまだ50か所しかできていない。医療レベルの向上では、患者・家族のQOLを考慮した医療の普及と専門医の増加と教育をはからなければならない。
薬物療法では、80年代にコリン仮説に基づいてコリンエステラーゼ阻害剤が使用されるようになった。
日本ではドネペジル(アリセプト)が用いられており、ガランタミンやリバスチグミンなどは目下治験中である。ABカスケード仮説にもとづいての治療は行われている。日本でみつかったAB蛋白産生抑制剤としてのセクレターゼ分解酵素(ネプリライシン)とAB免疫療法(ABワクチン療法)がある。タウ蛋白ルートからの治療の研究も進められている。
さらにはBDSD(周辺症状)への治療も重要である。認知症の人に現われる周辺症状とは、妄想、幻覚、興奮、うつ・無関心、不安、多幸、無為、脱抑制、易怒性、異常行動などである。さらには、たたく(自分をたたく場合も含む)、蹴る、人やものにつかみかかる、押す、物を投げる、などの行動もある。これらを抑制するためにたとえば向精神薬などの薬剤を使用することが是か非かという問題もある。(寿)