病気にかかったとき、どう病院を選ぶか? 症状によっても違ってくるが、かつては身近な人の口コミ、電話帳や新聞・雑誌の情報。現代なら、それにインターネットでの検索加わるのが一般的だろう。
『Dr.ヤンデルの病院選び』は、医者(病理医)の視点で病院選びの秘訣をつづった一冊だ。医療のプロ中のプロとはいえ、特別な技を駆使したりはしない。その手法は誰にでもできる、きわめて基本的なものだ。
著者は〈病院を選ぶ場合の基準の一番目は、「場所」であり「近さ」です。医師の知名度ではありません、テレビや雑誌でとりあげられたかどうかでもありません〉という。〈現代の医者の能力には、そこまで激烈な個人差はありません〉というのがその理由だ。
大半の疾患でガイドラインや標準治療が定められており、“さじ加減”が入り込む余地が非常に小さいのである。
病院が遠方や不便な場所だと、通うのも億劫になるし、交通費もかかる。ならば、〈医者を選ぶなら人柄で〉というのもそう悪い選び方ではないだろう(ときどき「ちゃんと勉強しているのかな?」と不安になる医師はいるが……)。
著者は「距離の近さ」の次に、「いい病院」の条件に、〈スタッフが日常維持のための適切なアドバイスをくれる〉ことを掲げる。
医療は病院だけで完結するものではない。薬の飲み方や湿布の貼り方、食材の選び方……。患者自身が日常生活の中で気をつけなければならないことも多いが、こうした〈「患者が自分でしなければならないこと」を、患者に指導するプロ〉が医師以外のスタッフである。看護師や薬剤師、栄養士、理学療法士……等々、昨今「コ・メディカル」と称される医療スタッフ(本書では“維持の人”と呼んでいる)の充実が、いい病院につながるのである。
■生活スタイルを保ちやすい病院を選ぶ
〈9割以上の病院は、「普通にいい病院」〉が著者の基本的なスタンスだが、がんをはじめとする病理診断を専門とするだけに、がんという病気の考え方や〈複雑な戦争〉と呼ぶ治療の解説には力が入っている。
治療に当たっては〈患者の体のことを第一に考えてくれる病院を選ぶ〉のが必要になる。〈単に医師が有名であるとか患者数が多いなどといった単一パラメータに基づくものではなく、患者自身の生活スタイルが保ちやすく、また複雑な医療の説明をきちんと受けながら、二人三脚で疾病に立ち向かえるような病院〉である。
前述の「いい病院」の条件である「場所であり近さ」「スタッフが日常維持のための適切なアドバイスをくれる」にも合致する。
恥ずかしながら本書を読むまで、その存在を知らなかったのが、「全国版救急受診アプリ『Q助』」だ。過去に、自分のために1回、他人のために2回、救急車を呼んだことがある。そのたびに、救急車を呼んだほうがいいのか、正直判断に迷った。
救急車を呼べば職場や近所は騒然とするし、昨今は軽傷での利用が問題視されている。しかし、このアプリを使えば救急車を呼んだほうがいいのか別の方法でよいのかが、一目瞭然だ(過去3回、救急車を呼んだケースを思い出しつつ試してみたが、「今すぐ救急車を呼びましょう」と判定された)。
〈個人的な感覚ですが、「見た目が軽症の患者」は、夜中に救急車を呼ぶより昼間に病院を受診したほうが、質の高い医療が受けられる率が高いと思います〉というから、正しい判断は救急車の有効利用だけでなく、患者自身の質の高い医療にも直結する。
インターネット検索が加わったことで、病院選びや治療の情報が、“とんでも情報”も含めて、以前にも増してあふれかえっている。だが、いい病院を探す方法は案外シンプルだ。玉石混交の情報に惑わされないようにしたいものである。(鎌)
<書籍データ>
市原真著(丸善出版1600円+税)