岐阜大学大学院
医学系研究科眼科学教授
山本 哲也氏
ファイザー㈱は、日本初の緑内障治療配合剤の製造販売承認を取得した。
「ザラカム配合点眼液」である。その記者発表会で岐阜大学大学院の医学系研究科眼科学の山本哲也教授が講演した。演題は「緑内障治療になぜ今配合剤が必要なのか?」
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緑内障は、眼球の中の圧力(眼圧)が上昇することなどによって、視神経が損傷を受け、視野が徐々に欠けていく疾患である。障害を受けた視神経は治療しても戻らない。したがって一度失われた視野は回復しない。時には失明にいたることもある。生涯にわたっての治療が必要であるが、自覚症状が比較的乏しく、治療効果も実感しにくいことから、治療の中心となる点眼の動機づけが難しい。
40歳以上の日本人における有病率は5%。日本および先進諸国では失明原因の1〜2位を占めている。
確実な治療法は確立されていないが、眼圧を下降させることが有効であることは間違いない。眼圧降下薬はいろいろあるが、1剤のみで長期にわたって視機能を維持するには限界があり、2剤以上の併用が必要な患者さんが多い。多剤併用の場合、薬剤の効果を十分に発揮させるには点眼間隔をあけて点眼する必要があり、その不便さからコンプライアンスを保ちにくい面があった。その意味で「ザラカム」の登場は、2剤併用の不便さを解消し、1日1回の点眼で眼圧下降の効果が得られるので、画期的なことといえる。
緑内障の治療法は、まず薬物療法があり、効果が期待できないときは手術(レーザー)をする。
薬剤は
①プロスタグランジンPG関連薬
②β遮断薬
③交感神経刺激薬
④炭酸脱水酵素阻害薬
⑤α1遮断薬⑥副交感神経作動薬の6種類をさまざまに組み合わせて使用する。
因みにザラカムは、PG関連薬のラタノプロストとβ遮断薬のチモロールの配合剤である。
日本緑内障学会では治療の実際や目標眼圧の設定でガイドラインを制定している。そして目標眼圧を設定するうえで考慮すべき因子を6項目あげている。無治療眼圧レベル、緑内障病期、患者の年齢・余命、他眼の状況、家族暦、その他の危険因子。
病院で処方された目薬が、正しく点眼されているかどうかについて2月13、14の両日実態調査を行った。40代、50代、60代の男女各200人が対象(合計1200人)である。
目薬を一度に何滴さしているか=1滴66・5%、2滴29・8%、3滴3・8%。目の表面にある涙液は7マイクロリッターであり、目薬1滴は25〜40マイクロリッターになるから1滴で十分すぎるのに、なぜか2滴、3滴使う人がいる。その理由は「1滴では薬が十分にいきわたっているか不安」と答えている人が53・2%もいた。
点眼後は、しばらくの間目頭を押さえながら目を閉じているのが適切な行動なのに、こういう人はわずか5・8%であった。目をぱちぱちさせるなど不適切な行動をしている人が、なんと94・2%もいる。まばたきすると「薬が目全体や患部にいきわたる」と誤解している人がほとんどである。複数点眼(多剤使用)の場合、5分間あけなければならないが、守らない人が37・2%もいた。その理由は「面倒」だから。
緑内障治療の近未来を考えると、まず楽に使えることが大切である。点眼薬が進歩して点眼回数の減少、副作用の軽減がはかられることである。次に点眼以外の薬物投与経路の開発。たとえば結膜下の注射1回で、半年間は効果が持続する、など。こうなれば点眼は過去のものとなる。さらには従来とは違う発想の手術法が編み出されるかもしれない。
配合剤(ザラカム)の効き方は、チモロールが房水の産生を抑え、ラタノプロストが房水の第二の出口の機能を促進するとことにある。患者さんにとっての利点は、従来の複数薬物と同等の効果があるのに、総点眼回数が減少し、点眼間隔に関する配慮が不要になり、薬剤管理が容易で、薬剤費の節約となる。社会的利点は、総医療費の減少、患者ケア関連費用の減少(予後改善による)。薬局・薬剤師の利点は、点眼の説明(服薬指導)が少なくてすむ、在庫管理が楽になる。医師の利点は、治療選択肢の増加、説明が少なくてすむ。
もちろん配合剤の課題や問題点がないわけではない。
①眼圧下降効果が本当に同じか(一部薬物の点眼回数の減少)
②副作用(複数薬物を使用していることを意識しづらい)
③早期から単味の薬物ではなく、配合剤が処方される可能性がある
④一部の薬物の組み合わせしか利用可能でない。
まとめとしては、緑内障では、点眼により眼圧を下降させることが重要であること、より楽に複数の薬物を使用可能な配合剤の有用性ということである。(寿)