帝京大学医学部
泌尿器科学教授
堀江 重郎氏
ファイザー㈱は、腎細胞癌治療薬「トーリセル」を新発売した。それを記念して記者発表会を開き、帝京大学医学部泌尿器科学教授の堀江重郎先生が講演した。演題は「医療者側からの適正使用の推進とトーリセルのポジショニング」であった、
◆ ◆
「トーリセル」は、点滴静脈内投与によりmTOR阻害作用による抗悪性腫瘍剤である。細胞の生存・成長・増殖を調節する働きをするmTOR活性を阻害し、細胞周期の進行および血管新生を抑制することにより、腫瘍細胞の増殖を抑制すると考えられている。したがって腎細胞癌のプアー・リスク(予後不良)の患者さんに対してのファーストライン治療として貢献できることが期待されている。
腎細胞癌で、土俵の鬼といわれた初代若乃花が亡くなられた。難治癌の一種で、発病して2年以内で亡くなられる方がほとんどである。しかしこの新薬の登場で5年に延びる可能性が出てきた。腎細胞癌は、腎臓の尿細管部分の細胞が癌化して発生する。日本では新規発生患者は増加傾向にあり、罹患者数は年に1万4千人と推計されている。世界的にみても増加している。
三大症状といわれるものは
①血尿
②腹部の腫瘤
③腎臓付近の痛み、
である。早期では無症状の場合がほとんどで、進行がんになると症状が出てくる。進行に伴い、全身倦怠感、貧血、発熱、食欲不振、体重減少などの症状が発現してくる。転移する箇所は肺と骨に多く、そのほか肝臓、脳、リンパ節などである。
最近では、超音波検査やCT検査の普及により、健康診断、その他の疾患検査の際に、偶然発見されるという「偶発がん」が増加してきている。
腎細胞癌の組織の型は二通りあり、淡明細胞癌が75%、非淡明細胞癌が25%である。
「トーリセル」は点滴静注液25mgで、分子標的治療薬である。欧米では07年から使用されており、日本では10年7月に認可された。一週間に1回、30分〜60分間かけて、静脈から点滴により投与する。アレルギー反応を予防するため、投与開始前にヒスタミン剤を投与する。治療中に注意すべき副作用としては次のようなものがある。
間質性肺疾患、アレルギー反応、手足などの静脈に血のかたまりができる、腎不全、消化管穿孔、心臓や肺の周りに液体がたまる、けいれん、脳出血、高血糖、感染症、重篤な皮膚症状、横紋筋融解症。さらに傷口が治りにくい、傷口から出血する(創傷治癒遅延)や下痢をする場合もある。
治療中の生活で気をつけることは、無理をしない程度に運動をする、バランスのとれた食事を心がける、である。また他の医師や歯科医師を受診することになったときは、「トーリセル」による治療中であることを告げてほしい。(寿)