NPO法人 月と風と

代表

清田仁之氏


 24時間の介護を必要する「超重度」の在宅重症障害者に対して福祉サービスを提供するNPO法人「月と風と」(兵庫・尼崎)は、月200時間のヘルパー事業を行なうかたわら、数々のワークショップを開催。障害者と健常者の交流を深めようと活動している。代表の清田仁之は実にユニーク。交流の場所になんと銭湯を選んだ。理由は簡単。「お風呂の気持ちよさは、入ったみんなで共有できますからねぇ」。


 11月には銭湯の脱衣場を使い、「ちょこっとカルチャー教室」と題したワークショップで韓国語の勉強会を開いた。参加は無料。会終了後には参加者全員で銭湯につかった。一人で湯船に入ることができない障害者に対し、参加した健常者が何気なく手を貸していた。その光景を見た清田は、この取り組みを続けていくことで、参加者同士が銭湯を通じて、ゆるくつながれる関係を作ってもらいたい、と感じた。そのために自分はなにができるのか。社会的な使命に燃えた一部の人間が耐え忍び努力している「悲壮感ただよう」介護職のイメージを、「なんか楽しそうなこと」で変えたい—。NPOをスタートさせた6年前の衝動が再び胸を駆け巡っていた。


 活動は、尼崎という下町気質あふれる土地柄にも助けられている。「アマの人は、他人の心の中にヘーキで一歩踏み込んでくる部分があるんですけど、それが良い方向に転がれば、異常に気前の良い人に巡り会えますねぇ」。ワークショップのために、自宅をわざわざ開放してくれた人もいる。


 交流の場でもっとも大切なこと。それは「慣れ」。清田は、ジャニーズグループの「KinKi Kids」を例えに出して、笑いながらこう説明する。「一番初めに彼らの名前を聞いた時、『KinKi(近畿)って、なんちゅうくくりの広い、えー加減なグループ名なんだろ』、と思ったんです。関西Kidsとか大阪Kidsならまだしもね(笑い)。でも彼らが売れ始めて、何度も耳にしていると、結局、その名前に慣れちゃうじゃないですか。そういったのに、似たような感覚っていったらいいんでしょうか(笑い)」。片意地張らない交流、清田が目指すものはそこにある。



 ファイザー(東京・代々木)が独創的かつ社会的意義の高い市民活動に向けて事業資金の支援を行なう「ファイザープログラム」で、この取り組みが新規助成対象に選ばれた。応募総数225団体の中から選ばれたのは、わずか16団体(新規は8団体のみ)という栄誉。14日、ファイザー本社で他の団体とともにスライドを使い、プレゼンを行なった。「どんなに障害が重くとも! ヒトリボッチジャナイプロジェクト in 劇場型銭湯」。年4回の取り組み。先述の韓国語教室もそのプロジェクトの一環だ。


 プレゼン当日、清田氏はキースヘリングデザインの黒スーツとポケットチーフ、ド派手な真紅のネクタイを身にまとい、壇上に立った。そしてこれまでの思いをぶつけるかのごとく、ありったけの思いを込めて、こううったえた。「社会問題のほとんどは、孤独が原因なのではないでしょうか。だから、偶発的でも必然的であってもいい、『知り合いの多い人生』が幸せな人生なのだと、僕は思います。われわれNPOの仕事は、ゼロから1を作ることです。1までは達することはできたので、次は1を100にできるよう頑張っていきます!!!」。


 会場がその勢いに圧倒される。ネクタイの色よりも、はるかに「情熱的」な瞬間だった。


「ファイザープログラム」で助成対象となった計16団体


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NPO法人 月と風と
http://tsukikaze.mond.jp/

ファイザープログラム
〜心とからだのヘルスケアに関する市民活動・市民研究支援
http://www.pfizer.co.jp/pfizer/company/philanthropy/pfizer_program/index.html