評論家
樋口 恵子氏
日本医学ジャーナリスト協会の総会で、評論家の樋口恵子さんが特別講演を行なった。演題は「病み上手の死に下手」社会の当事者として——であった。
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演題に選んだ言葉「病み上手の死に下手」は、90歳でなくなった姑の言葉である。明治38年の生まれなので、やはり明治女の気骨を十分に持っていた。
高齢者はいま増える一方である。団塊の世代が通り過ぎれば一息つけると思うが、私たちの世代がそこまで見届けることはできない。介護の費用は2兆円、これが8兆円まで増えるであろうし、医療費もまた現在の何倍かになる。課題は実に明確である。介護・医療の経済的状況、労働力にどう対応するかである。
要介護の原因を見ると、男女差がある。男性の場合は脳卒中プラス心臓病で41%(女性は20・7%)、女性の場合は関節疾患プラス骨折・転倒で27%(男性11%)となっている。
高齢女性の死因は、夫の存在ではないかという興味深い調査データがある。徳島大学医学部公衆衛生教室の07年発表のデータである。松山市近郊の60〜84歳3100人を5年を隔て追跡調査した。死者の共通要因は、男性は妻がいない、喫煙・飲酒。女性は夫がいる、であった。つまり75〜84歳の女性で、夫がいる場合の死亡リスクは2・1倍だったのである。
誰もが健康でありたいと願っている。多病より少病、無病がいいに決まっている。しかし年をとると身も心もメンテに費用がかかるようになる。幼い者は支えなければならない。働ける年代に費用をしっかり払う。しかし年をとったら支えてもらえる制度を、きちんとしなければならない。北欧は25%の消費税でそうした面を保っている。住宅は安いし、教育費はただである。日本はその両方ともべらぼうに高い。
政府のいろんな審議機関に、もっと高齢者が入るべきである。高齢者の幸せを、若い人たちに決められたくない。江戸時代、町内のご隠居さんというのがずいぶんと役に立っていた。高齢者社会の現在、こういう役割を果たす存在が必要である。
高齢者はいろんなところが故障しがちになる。
①いろんな病気が慢性化しやすい
②いろんな病気を併発するようになる
③しかも、そうした病気の症状が重いか軽いかにかかわらず、認知症になる可能性が高くなってくる
④そして、いずれは避けることのできない死を迎えることになる。
「障害者自立支援法」を新しくするべく取り組んでいる。いま当事者の声を聞いているところである。これからは同時多発介護の時代がやってくる。企業でも介護休暇を作る必要が出てくる。介護に携わっている85%が女性である。男性は15%でしかない。介護のためになんと14万人もの人が離職している。声を大にして言いたいのは「介護をしない男は人間じゃない」ということである。(寿)