今にも雨が降り出しそうな曇り空の日本橋。医薬経済社近くの居酒屋『乃の木』に来た筆者(中村紀洋と同世代。中日ファン)を待ち構えていたのは、医薬経済社で長く霞が関・永田町の取材を続けてきたベテラン記者(石井一久と同世代。巨人ファン)。これからの政変を予感させるような空模様の下、対談するテーマは「参院選後の政治」。どの党のプロパーでもなく、誰に気兼ねをする必要のない“タブーなき対談”を通して、これからの日本政治、医療業界の行方を探ってみた。(文中敬称略)
筆者——
「民主党44議席」とか「改選第一党が自民党」とか「現役大臣落選」とか、いろいろ香ばしい選挙だったわけだけど、このコーナー的には「医師会候補が揃って討ち死に」というのが一番のトピックでしょう。で、これは予想されてたことなの?
記者——
されてた。「民主党」「自民党」「みんなの党」に割れた時点でね。前に落選した武見敬三の得票数が18万票強。これが単純に3つに割れただけで各々10万票に届かないし。それに3人ともタレント候補みたいな知名度もないから、浮動票が入ることも有り得ないわけでね。
筆者——
そこまでわかっていたのに、どうして医師会は支援候補を一本化できなかったの? 新しい会長は民主党を支持してたんでしょ?
記者——
民主支持というよりは小沢一郎支持だね。それはそれとして副会長が自民支持、各県の医師会も自民支持だから、トップダウンで決められることじゃなかったの。民主支持の原中勝征会長としては、自民党の西島英利を推薦するわけにいかなかった。で、安藤高夫を推薦したけど、県レベルでは自民支持だからそっぽを向いたということ。
筆者——
トップと傘下で“ねじれ”があったということね。それにしても民主支持の原中会長が選任されたのが4月でしょう? この時点でほとんどの人は、「次の参院選で民主が敗れる」ってことがわかってたと思うんだけど。もしここで自民寄りの会長を選んでおけば、西島を国会に送って次の政権交代(自民政権の可能性大)でイイ目を見れただろうにねぇ。
記者——
医師会に先の見えるのがもういないんだろうねぇ。坪井栄孝までじゃないの。ちゃんと回りを見て方針を決められた傑物は。あとは、自民系、民主系問わず、ダメなのしかいないもの。
筆者——
これで国会に医師会の代弁者は一人もいなくなったわけだけど、政治への影響力という点ではどうなんだろう。集めた票数を単純に合算すると17万票だから、医療業界団体としては屈指の集票力はあるけど、全特推薦の長谷川憲正は40万票獲ってるから、全業界的にはさほど影響力はないともいえるし……。
記者——
政治への影響力はゼロでしょう。政治的な発言力の源泉は、「集票力」という可能性じゃなくて「当選させた議員」という結果だから。それに去年の診療報酬改定では、茨城県で丹羽雄哉を落とした原中の顔を立てるために、小沢の鶴の一声でプラス改定にしてもらった。でも、これから小沢が復権したとしても、小沢は去年のことで原中への義理は果たしたと思ってるでしょう。ここで安藤を通していればハナシは違ったかもしれないけど。
筆者——
なるほどねぇ。さて、これからの政局だけど、選挙が終わって一週間も経ってないのに先のことを言うと鬼が笑うかもしれないけど、ねじれ解消にどう動くかねぇ。一応、可能性を指摘すると、単純な数合わせで見れば「民公連立」「民社み連立」「民自大連立」なら参院過半数を確保できる。あとは、政策ごとに他党と連携する部分連合。それと、これはどのマスコミも指摘していないけど、個人的にはあり得るんじゃないかと思っているのは、かつて「自民・金丸vs社会・田辺」の国対がやっていた“与野党談合”の可能性だけど……。
記者——
誰がどう見ても民公連立じゃないの? 誰も大っぴらに口にしていないだけで、連立する可能性でいえばこれしかないもの。自公与党の地方議会をひっくり返すためには、来年の統一地方選で公明党と組むことが不可欠だし。早めに民公連立を実現して、統一地方選までに「永住外国人の地方参政権付与法案」を通しちゃえば、自公与党の地方議会はオセロの目をひっくり返すように民公与党になるだろうし。こうして地方組織が固まれば、次の総選挙でも悪くない勝負ができると見てるんじゃないの。
筆者——
そういえば青山繁晴も「レッドカードは個人に突きつけるものであって、チームに突きつけるものではない」って指摘していたね。で、仮に民公連立で行くとすれば、医師会はじめ医療業界にはどういう影響がでてくるのかなぁ。自公政権の時、厚労相は公明党から出てたでしょ? 素人目には医療行政に理解があるようにも見えるんだけど。
記者——
医師会の望む政策と、公明党が目指す政策は真逆。もし、民公連立体制が続くとすれば、医師会がイイ目を見ることはないと思う。というか、そもそも低所得者層の味方である公明党と支持母体の創価学会にとっては、比較的裕福な開業医の集まりである医師会を助ける筋合いはこれっぽっちもないわけでね。実際、公明党の坂口力が厚労相だったときは、ほとんど顧みられなかったし。
筆者——
なるほど。じゃぁ連立与党が過半数を獲れなかった時点で、医師会は“積んだ”ということか。仮の話で、大連立なら西島のハシゴを外したことで自民党からは恨まれているし、民社み連立ならコストカッターのみんなの党から目の仇にされると。医師会にとっては八方塞の状況なんだなぁ。しかし、今回の選挙結果を見ると世論は一貫してブレてないというか、要するに小泉改革路線の堅持を望んでいるということでしょう。新党改革や立ち上がれ日本ですら比例で1議席とれたのに、反小泉路線が鮮明な国民新党は1議席もとれなかったわけだから。
記者——
実際、みんなの党もあれだけ躍進しているってことを見れば、そう見ても間違いじゃないだろうね。
筆者——
だとしたら次の総選挙でも民主党は苦しいんじゃないの? これから他党と連立交渉をするには、国民新党を切って選択肢を増やすのが上策だけど、三度も連立合意したのに全て反故にする政党を誰が信じるかねぇ。
記者——
故宮澤喜一が言ってたように「政治は関係性」だから。その局面で有利な関係になるとすれば、それまでの恨みとか罵りあいはサッパリ忘れて手を組むでしょ。
筆者——
なるほどねぇ。となると渡辺喜美が期待する政界再編も起きないんだろうなぁ。そもそも中選挙区制のときみたいに選挙区調整が簡単じゃないから、自民、民主間でのガラガラポンは難しいとは思ってたけど。小沢にしたって、自分で党を割る必要性は全くないわけだしね。そもそも小沢はド・ゴールみたく「俺が民主党だ!」と思ってるんだろうし。
記者——
支援する業界団体、組織がなくて、総選挙の候補者が決まっていないみんなの党が、民主、自民内にいる「改選がヤバめな候補」の受け皿になるだろうから、「政界再編は絶対に起きない」とはいえない。ただ、明日解散とかされたら、みんなの党には候補がいないし、有権者のあいだにも自民アレルギーが色濃く残っているから、民主党が過半数を割ることはないと思うけどねぇ。でも、麻生内閣のときに早期解散するか否かが焦点になってたとき、「麻生は落選の挫折感を知っている。だから、代議士のクビを切り、彼らに自分と同じような挫折を味わわせることはできない」といって解散がないことを喝破していた人がいた。菅も3度落選してるでしょう? 多分、早期解散はできないんじゃないかなぁ。
筆者——
ということは、向こう3年間は混迷した政治状況が続くということか……。
と、話に話した6時間。これ以外にも選挙結果への評価や統一地方選の見通し、現役政治家の月旦など様々なテーマについて語り合ったものの、スペースの関係で残念ながらスッパリと省略。昨年の有馬晴海氏へのインタビューに続く「政治シリーズ」。次回は3年後の衆参ダブル選挙後(もし、早期解散したらその総選挙後)にお送りしたい。(有)