ウィミンズ・ウェルネス
銀座クリニック院長
対馬ルリ子


 PMS(Premenstrual Syndrome。月経前症候群)とは、月経前に起こる身体的、精神的な諸症状のこと。かいつまんで言えば、月経の前に体の調子が悪くなったり、気持ちが乗らなくなったりするようなことだ。 


 男性にとってはとことん縁のない、いわゆる“生理”の問題だけに、企業でも家庭でもPMSによる体調不良を訴えられようものなら、「いろいろと能書きたれて、体よくサボっているだけじゃないのか?」と無神経な対応をしてしまうことも少なくない。その結果、些細なことから深刻な問題に発展する——という可能性もあるだけに、今回の対馬ルリ子ウィミンズ・ウェルネス銀座クリニック院長の講演は、女性だけでなく男性にとっても知っていて損はない内容といえそうだ。 テーマは「女性のためのPMSの知識」(テルモPMSランチョンセミナー)。   


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 かつて、女性は大きくなったら結婚して、生涯に5人、10人と子どもを産むことが当たり前でした。女性の身体は、そのようなライフスタイルに合わせて出来ていますし、これは現在でも変わっていません。しかし、戦後になってから女性のライフスタイルは劇的に変わりました。

 

 女性の社会進出が当たり前のこととなり、かつて日常的だった妊娠、出産が、今では激減している状況にあります。出産時期も、以前であれば20代前半で子どもを持っていたのが、今では30代になって「これから産もうか?」という人が多くなってきています。

   

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  普段意識することはないものの、人間は哺乳類であり、広い意味では犬や猫と同類といえる。つまり、女性(雌)は、生物学的な意味において「数多くの妊娠、出産」をすることに適した“機能”を持っているということだ。いい悪いは別として、この“機能”を使わず持て余しているのが現代女性といえそうだ。


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 妊娠、出産が減ることにより、月経の回数は増え、それに伴うトラブルも増えてきています。昔の女性は、生涯の月経回数が50回といわれていました。一方、現代の女性は、450500回に上るとされています。毎月月経が来るのはつらいものですし、大変なことです。命に関わるほどのことはなくても、トラブルは重くなっています。

  

 子宮内膜症、子宮筋腫、子宮卵巣がんなどは、妊娠していない女性に多い病気です。また、日本女性の20人に1人は乳がんの患者といわれ、発症年代の若年化も進んでいます。これら病気は、現代女性に特有の病気といっていいでしょう。PMSもこれらの病気に連なるものです。

  

 PMSは、月経前の310日くらいにかけて起きる身体的、精神的症状です。女性の7080%が月経前に何らかの症状を感じていますが、このうち、日常生活に差し障るほどの症状がPMSとされています。

  

 その症状には、資料1の通りです。精神症状で、ひどいケースとなると、カッとなり我を忘れて自宅のテレビを投げつけてしまったというものがあります。

  

 また、元々ある病気がPMSで悪化することもあります。例えば偏頭痛や喘息、リウマチ性疼痛、甲状腺疾患などは、月経前に症状が悪化するといわれています。



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 このように様々な症状を引き起こすやっかいなPMSは、一体何が原因で起きるのだろうか?   実のところハッキリした原因は未だに明らかになっていない。原因として考えられる説には、「排卵後、黄体ホルモンの分泌により水分貯留が起きるため」「月経前にβエンドルフィンが低下し、うつ状態を引き起こす」「月経前にセロトニン代謝が減り、精神症状が起きる」などがある。   

 

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 PMSの原因と考えられることには、「女性ホルモンの感受性」「セロトニン代謝の悪化」「プロスタグランジンの低下」「カルシウム、ビタミンの不足」「水分貯留」などがありますが、恐らくはこれら全てのファクターが複合的に関連しているのでしょう。それぞれの事象に対処した結果、症状が軽くなることが知られています。


 実際の治療には、OC(低容量ピル)や漢方薬のほか、抗うつ剤、抗不安薬などを処方します。OCはホルモンの安定を図り、毎月服用することでホルモンの増減を少なくします。OCの使用目的について純粋避妊は11%程度で、40%近くは月経痛、PMSで処方されているというデータもあります。抗うつ剤、抗安定剤は精神的不安、焦燥、不眠などを改善し、漢方薬はその人の「証」(注:自覚症状や他覚的所見、患者それぞれの特長などを総合的に判断する漢方独特の診断)に合わせて処方します。

 

 PMSの対処法としては、基礎体温表をつけることも有効です。低温期に身体的、精神的症状が出た場合はPMSである可能性が高いといえます。つまり、基礎体温表をつけていれば、事前にPMSか否かが判別できるわけで、これにより症状を予防したり、仕事のスケジュールを調整できるんですね。基礎体温表をつけるだけで症状が改善したというケースもあります。

  

 このほかにも日常生活のちょっとした工夫で、PMSの症状を改善、予防することもできます。食事の工夫では、低GI食品を摂ることで、低血糖のリバウンドを下げることができます。また、分食をしたり、単一炭水化物食品ではないイモ、栗、玄米などを摂る。良質のタンパク、油脂を摂り、塩分を控える——といった工夫で、PMSの症状を改善できるでしょう。具体的には資料2にあるとおりです。



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 いまだハッキリとした原因のわからないPMSだが、<対症療法>としては、資料2の通り、食事、睡眠の改善——良質のものを過食にならない程度に食べ、寝る前に有酸素運動などをしてグッスリ眠る——などを初め、「一般に“良い”とされる生活をすること」が肝要といえそうだ。もっとも、会社勤めをしていれば、こうした“良い”生活を続けることこそが一番難しいのだが……。(有)