こうした経緯を見ると、利害調整と妥協、政治決着の積み重ねが図1のような複雑な財政投入の構図を生み出していることに気付く。同時に、根深い対立の歴史を踏まえると、国民会議報告書が自画自賛している理由も頷ける。


 時あたかも長年、保険者となることにリスク等もあり問題があるという姿勢をとり続けてきた知事会が、国民健康保険について、「国保の構造的な問題を抜本的に解決し、将来にわたり持続可能な制度を構築することとした上で、国保の保険者の在り方について議論すべき」との見解を市長会・町村会と共同で表明し、知事会単独で「構造的な問題が解決され持続可能な制度が構築されるならば、市町村とともに積極的に責任を担う覚悟」との見解を表明している。この時機を逸することなくその道筋を付けることこそが当国民会議の責務である。(国民会議報告書 27ページ)


財布の付け替え?


 国保の加入者には企業を退職した高齢者、若年者を中心に非正規雇用者や無職者が多く、(1)年齢構成が高い(2)医療費水準が高い(3)所得水準が低い(4)保険料負担が重い(5)保険料の徴取率が低い(6)小規模な団体が多く、財政運営リスクが不安定—などの構造問題を抱えており、高齢化社会の到来や若年者の失業など社会の矛盾が色濃く反映している。2011年度は約3000億円の赤字となっており、リスク分散と課題解消の方策として財政単位を大きくすることは必要である。


 では、都道府県単位化の目指すべき目標は何か。政府・与党が提出している「持続可能な社会保障制度確立改革推進法案(通称、社会保障制度改革プログラム法)」は必要な措置として以下の点を挙げている。


 財政上の構造的な問題を解決することとした上で、国民健康保険の運営について、財政運営をはじめとして都道府県が担うことを基本としつつ、国民健康保険の保険料の賦課徴収、保健事業の実施等に関する市町村の役割が積極的に果たされるよう、都道府県と市町村において適切に役割を分担するために必要な方策。

 しかし、社会保険の本質は保険料負担によるサービス提供と構成員によるリスクのシェアにある。保険料の賦課徴収を市町村が引き続き担うのであれば、財政運営の基本は市町村に残ることになり、その内実は見えにくい。


 むしろ「割り勘方法」に過ぎない財政調整の変更に関して、国民会議報告書は必要性を饒舌に語っている。


 被用者保険者が負担する支援金の3 分の1 を各被用者保険者の総報酬に応じた負担とすること(総報酬割)を2013年度から2 年間延長する措置が講じられているが、支援金の3 分の2 については加入者数に応じたものとなっており、2015年度からは被用者保険者間の負担の按分方法を全面的に総報酬割とし、保険料負担の平準化を目指すべきである。その際、協会けんぽの支援金負担への国庫補助が不要となるが、こうした財源面の貢献は国民健康保険の財政上の構造的な問題を解決することとした上での保険者の都道府県への円滑な移行を実現するために不可欠である。(同34〜35ページ、一部省略)


 つまり、後期高齢者医療制度に対する支援金の財政調整ルールを変更し、現行の給与(=総報酬)1/3、加入者数2/3という案分方法から全額総報酬に変えることで、保険料間の平準化が図られるため、そのことで浮くことになる協会けんぽの国庫補助金約3000億円を使って、国保の財政赤字を穴埋めするという案である。


 言い換えれば、各医療保険制度が後期高齢者医療制度を支援する際の「割り勘」ルールを変えることで生じる金を使い、都道府県単位化を嫌がる全国知事会を納得させた構図である。


 しかし、保険者とは本来、保険給付や財政運営だけでなく、被保険者に対する健康増進や支出の適正化などを進めるべき存在であり、都道府県単位化は保険者機能を実現するための手段として位置付けられなければならない。財布の付け替えにしか見えない都道府県単位化に、どんな展望があるのだろうか。


関係資料

◇ 国民会議報告書
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/kokuminkaigi/pdf/houkokusyo.pdf


 ◇ 国保財政の現状

http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r98520000031pmw-att/2r985200000320c5.pdf


◇ 社会保障制度改革プログラム法の条文(持続可能な社会保障制度の確立を図るための改革の推進に関する法律案)
http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/soumu/houritu/185.html

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丘山 源(おかやま げん)


早稲田大学卒業後、大手メディアで政策プロセスや地方行政の実態を約15年間取材。現在は研究職として、政策立案と制度運用の現場をウオッチしている