東京乾癬患者友の会
役員
大蔵 由美氏

東京慈恵医科大学皮膚科学講座
教授
中川 秀巳氏

東京逓信病院皮膚科
部長
江藤 隆史氏

乾癬治療のパラダイムを変えうる生物学的製剤である『レミケード』(田辺三菱製薬)、『ヒュミラ』(アボットジャパン、エーザイ)は、一体、どのような薬なのか?

 

 抗ヒトTNFαモノクロナール抗体である両剤は、元々、有効な治療法のなかった関節リウマチに対する“切り札”として使われている医薬品だ。

 

 免疫システムの一部に作用することで、炎症などを引き起こすサイトカイン「TNFα」の働きを抑える効果があることから、「免疫系にも異常が生じ、炎症が起きている乾癬にも効果があるのではないか?」という観点で、乾癬に対する臨床試験を実施。結果、プラセボ投与群に対して皮膚症状、QOLを有意に改善する結果がでたことから効能追加を申請。このほど承認された。

 

「塗らずに済むのが、この薬の特徴」(レミケードについて江藤隆史氏)

 

「二週間に一度の皮下注射という簡便な治療法」(ヒュミラについて中川秀己氏)


 このように、治療が簡便で患者に負担を欠けないことが一番の特長といえる。

 

・毎日朝晩1時間かけて全身に外用薬を塗る。

 

・一々専門の医療機関に通って光線療法を受ける。

 

・日光浴や湯治のために日本中を旅する。

 

 といった手間を取らず、これらの治療法に勝るとも劣らない効果がある——というのが生物学的製剤療法という。

 

 その高い効果は臨床試験で証明されている。

 

◆レミケードの爪乾癬に対する治験では、投与後24週で爪乾癬消失率が26.2%(プラセボ投与群は5.1%)に達した。(Rici P. et al:J Am Aced Dermatol 2008;58:244)

 

◆ヒュミラの乾癬患者に対する治験では、投与16週でのPASI(Psoriasis Area and Severity Index)改善率75%以上の患者の割合が、40mg投与群で57.9%(プラセボ投与群は4.3%)に達した。(全国42施設、169例の患者を対象とした二重盲試験)

 

 東京乾癬患者友の会の役員を務める大蔵由美氏も、「生物学的製剤を使用したら一気に関節症状が改善し効果が現れた」と自らの実体験を語る。関節症状、頭皮や爪を含む皮膚症状といった外用薬療法では治療が難しい症状にも効果のある点も、生物学的製剤の良さといえるのだろう。

 

●治療開始6週間後は、8週間おきの点滴静注で済み、速やかに効果が出るという『レミケード』

 

●2週間ごとの皮下注射という最も簡便な治療法で、欧米では継続治療に良く使われるという『ヒュミラ』

 

 それぞれに特徴があり効果の高い医薬品だが、唯一のネックが「医療費(薬価)が高い」ことだろう。薬価、投与回数、高額療養費制度の適用などを勘案しても、年間治療費の自己負担額は『レミケード』で40数万円、『ヒュミラ』で60数万円に及ぶ。治療中に再発の兆候がなければ、いくぶん治療費は軽減されると考えられるが、それでも“高くつく”ことは間違いない。

 

 ただ、見方を変えれば「年間50万円前後を覚悟すれば、健常者と同じくらいに乾癬の症状を改善できる可能性がある」ということでもある。場合によっては数百万円かかるような怪しい民間療法や、湯治、外用薬療法よりも確かな効果があることは、治験結果が証明している。

 

「体表に病変が現れる疾患」に対する偏見が強いからこそ、「早く治したい」「キレイにしたい」という焦りが募り、「現代医学は信用できない! 私たちの治療法を試してみませんか?」という代替医療に絡めとられ、時間やお金だけでなく症状自体を大きく悪化させてしまう——アトピー性皮膚炎を巡る現場で起きた“不幸”だ。

 

 今回上市された生物学的製剤が、乾癬治療における切り札となるのか? 代替医療や怪しげなビジネスを駆逐し得る存在感を示すことができるのか? 両剤を巡るこれからの動きに注目していく必要がありそうだ。(有)