新潟大学大学院医歯学総合研究科
精神医学分野教授
染矢 俊幸氏


 大塚製薬のプレスセミナーで、新潟大学大学院医歯学総合研究科・精神医学分野の染矢俊幸教授が演述した。演題は「統合失調症の人が気をつけたい健康管理——メタボリック・シンドロームを中心に」であった。

 

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 統合失調症は、約100人に1人が発症するといわれている。


症状は

 

①陽性症状(幻覚・妄想など)


②陰性症状(情動の平板化や意欲の低下など)


③不安・抑うつ④認知機能障害などに分けられる。

 

 治療は、抗精神病薬による薬物療法と精神科リハビリテーションの組み合わせで行われている。

 

 非定型抗精神病薬の登場から10年が経過し、抗精神病薬は有効性だけでなく安全性がより一層重要視されるようになってきた。しかしこれまで副作用として問題視されていた錐体外路症状(自分の意思とは関係なく現れるパーキンソン病様の異常運動)が解決されるようになってきた一方で、新たに非定型抗精神病薬の服用によるメタボリック・シンドロームへの影響が問題視されるようになった。食の欧米化やストレス社会、慢性的な運動機会の減少など、メタボリック・シンドロームを助長しやすい環境が拡大する中、統合失調症患者の治療においても、精神症状をコントロールするだけでなく、自らが体調・健康管理ができるようなアプローチが重要となる。

 

 統合失調症を定義づけると「さまざまな刺激を伝え合う神経のネットワークにトラブルが生じる脳の機能障害によって起こる病気」となる。脳にはコミュニケーション能力、情報処理能力があり、感情、思考、意欲を司っている。


機能障害が生じると

 

①現実を正確に判断する能力が低下する


②感情や意欲のコントロールができなくなる


③適切な対人関係を保つことが困難になる


④外からの刺激に迅速かつ正確に対応できなくなる

 

——という状態になってしまう。

 

 陽性症状は、統合失調症特有の症状で、発病後まもない急性期、再発時にみられる。幻覚、妄想、不安定な感情、奇異な行動、思考の混乱が起こる。

 

 陰性症状は、発症した時点から現れることもあるが、通常は急性期のあとに長時間みられる。社会的引きこもり、感情鈍麻、言語貧困、意欲減退、注意力・集中力の低下、無関心。

 

 薬物治療は、急性期・慢性期を通じて治療の基本となる。とくに症状の激しい急性期に効果を発揮する。再発予防のための長期服用も大切になってくる。

 

 抗精神病薬は、1950年のクロルプロマジンの使用から始まっている。定型抗精神病薬といわれるもので、このほかにハロペリドール、フルフェナジン、ピモジド、スルピリドなど約20種類がある。治療上の問題点としては、錐体外路系症状と遅発性ジスキネジアがある。1990年にクロザピンが登場、2000年代に入ると非定型抗精神病薬が相次いで出てきた。リスペリドン、オランザピン、クエチアピン、アリピプラゾール、ブロナンセリンである。治療上の問題としては、代謝異常(糖尿病、体重増加)、心循環器系副作用、性機能障害がある。神経学的有害作用は錐体外路症状と神経遮断薬悪性症候群がある。前者は手のふるえ、筋肉がこわばって動作がぎこちなくなる、体が落ち着かず、じっとしていられない(そわそわする)などの症状がでる。

 

 非神経学的有害作用は、体重増加、糖代謝異常、脂質代謝異常、高プロラクチン血症、不整脈・薬剤性QT延長症候群、末梢性コリン作用(口が乾く、かすみ目になる、尿が出にくい、便秘する)、流涎、起立性低血圧、などの症状が出る。

 

 有害作用による症状のデータはいろいろ出されており、まとめ的に述べると次のようになる。

 

①統合失調症患者の心血管疾患による死亡率は、一般人口の約2倍にのぼる


②肥満、高血圧、脂質代謝異常、糖代謝異常は、個々の危険因子はその程度が軽くても、重複した場合には動脈硬化性疾患の大きなリスクとなる


③統合失調症患者では、肥満や糖代謝異常の頻度が高い。

 

 統合失調症患者の生活習慣をみると、意欲や活動性の低下によって運動量が少なくなり、喫煙者が多く、脂肪の摂取量が比較的多く、食物繊維の摂取量が少ないなどの特徴がある。したがってメタボリック・シンドロームになりやすいということになる。


 これを予防するために生活指導、栄養指導などを行うのだが、

 

①現実を正確に判断する能力が低下している


②意欲・活動性が低下している


③無関心、といった状態で、効果が上がらないのが現状である。そこで健康管理のポイントを三者三様でまとめてみた。

 

治療側の配慮=

 

①精神症状に対する効果だけでなく、身体への影響の少なさを考慮した治療薬剤の選択(患者さんによって薬剤との相性や効き方が違う)


②治療経過の注意深い観察(治療を始める前に遺伝子調査が必要である。薬の効果や副作用を把握しておく)。定期的な体重測定、血液検査(プロラクチンを含む)を実施する。

 

本人が気をつけたいこと=

 

①処方された薬剤をきちんと飲み続ける


②自分自身の体調管理に気をつける(体重測定、検査の依頼、バランスのとれた食事、軽い運動など)


③気になる症状や変化があったら、主治医・スタッフに相談する。


身近な人が気をつけたいこと=疾患や薬物による身体面へのリスクを理解し、注意しながら患者さんの日常生活を支援する。(寿)