スギメディカル株式会社
代表取締役社長
荒井 恵二氏


 11月9日、新宿で開催された『オンコロジージャパン2010』。専門医、メーカー関係者などが、がん治療に関わる最新情報を紹介するセミナーで、一際異彩を放つプログラムを見つけた。

 

 演題は『地域医療におけるオンコロジー・マーケティング』。演者はスギメディカル株式会社の荒井恵二社長。

 

「なぜ、がん治療で『スギ薬局』?」


「なぜ、がん治療で地域医療?」

 

 プログラムを目にした途端、吹き荒れる“なぜ”の嵐。講演の冒頭を聴くとスギメディカルは、調剤併設型ドラッグストアチェーン『スギ薬局』の傘下で、訪問看護事業などを展開しており、さらにCRO、SMOなどを通して治験業界にも参入しているという。


「なぜスギメディカルが、『地域医療のマーケティング』なのか?」


そんな疑問を抱きながら取材したのだが……たった30分のプログラムであるにも関わらず、その内容は極めて革新的で意義深いものだった。

 

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 医療市場の行方は人口構造の変化で大きく左右されます。どの市場にターゲットを当てるか? どのような製品を開発するか? どのようなマーケティングをとるか? これら全ての戦略は、これから急速に進む高齢化と、それに伴い大きく変化する市場環境を視野に入れて練り上げていくことが肝要といえるでしょう。

 

 90年代から深刻化してきた高齢化は、2012年以降、毎年100万人のペースで高齢者人口が増えてくることが明らかになっています。2015年にはベビーブーマーである団塊世代が高齢者になり、2025年には団塊世代が全員70代、医療費は70兆円に達します。現在の医療費が35兆円ですから、単純に国民負担は2倍になるということです。

 

 さて、高齢化が急速に進展するといっても、全国均一に高齢者が増えていくわけではありません。こちらの図(図1、図2)にある通り、日本における高齢化は「都市部ほど急速に進む」ことが大きな特徴です。最も高齢化が進む神奈川県では、100〜150万人が高齢者になります。この数字は一つの大都市全てが高齢者で埋め尽くされることに等しいもので、極めて深刻な事態といえましょう。


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 高齢化の進展は、当然のことながら数多くの病人を生むことになる。若年者に比べて高齢者の方が疾患の罹患率が高いためだ。がんの場合は、50代以上で罹患率が急激に上がるというデータがある。すなわち、2012年以降は、大都市で数多くのがん患者が出てくるということだ。

 

 今日では、「がん治療=入院」が常識です。しかし、近い将来、深刻なレベルまで高齢化が進むと、がん患者を物理的に受け入れられなくなる可能性が出てきます。

 

 現在、120万人の死亡者の80%が病院で亡くなっています。この事実からわかることは、現在の医療体制の下で病院が受け入れられる患者は100万人程度ということです。もし、死亡者が170万人という規模にまで膨れ上がってしまったら、50〜60万人は自宅で看取られることになるでしょう。都市別の病床数(図3、図4)を見ると、大都市ほど1人当たりの病床数が少ないことがわかります。医療体制が現状のままで推移すれば、首都圏では多くのがん患者が病院に入れず、自宅で治療するという状況が当たり前のように見られることになるはずです。


 だからこそ、「地域でがん治療ができる医療体制」を作り上げていくことが必要ではないでしょうか。これまでのような大病院中心の医療体制では対応できなくなるのですから、自宅でのがん治療、抗がん剤治療ができる体制を早急に整えなければなりません。

 

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 荒井社長が指摘するように、がん治療が病院から地域へと移行する流れは、診療報酬体系からも読み取れるという。実際、「がん治療連携指導料」「がん治療連携計画策定料」が今年より新設。老人保健施設における内服抗がん剤、麻薬の処方せんは一昨年、同じく注射抗がん剤の処方せんも今年より新設された。国も現在の大病院中心の医療体制を変えるべく動き出しているのだ。このように市場環境が大きく変わりつつあるなかでは、メーカーのマーケティング戦略も見直しが迫られてくるのかもしれない。

 

 私たちは、がんを巡る医療市場のシェアは、50%近くが<居宅系>(自宅・在宅)になると予測しています。がん患者の半分近くが自宅で治療する時代に、従来のような大病院中心のポジショニング戦略をとっていて生き残れるでしょうか? 大病院だけに視野を向けるのではなく、<居宅系>の市場にどうやってアプローチするのかを考える必要があるのではないでしょうか?


 例えば生物学的製剤のなかには-20℃での保管・物流が求められる製品もあります。しかし、医薬品卸に尋ねてみると、どの会社も「その条件での物流は不可能」といいます。このような大病院でしか使われない製品を、<居宅系>で使えるように保存条件や剤形をアジャストしていくかがポイントになると考えます。

 

 しかし、治験データ一つとっても、現在はほとんどが大学病院で取られています。地域に根ざした診療所、薬局、自宅でどのように使われているかについて、しっかりと把握している製薬企業がどれほどあるでしょうか。がん治療が居宅系に移行するなかでは、地域医療における臨床データ、マーケティング戦略を練ることが求められます。

 

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 そのうえで荒井社長は、これから開発するがん治療薬に求められるものは「薬剤師、高齢者が使いやすいか否か」がポイントになると語る。各治療ステージをカバーする剤形、厳密な保存条件を必要としない汎用性、誤飲を防ぎ飲みやすいユーザビリティ……。具体的には液剤とゼリー剤であればゼリー剤が望ましく、大きい錠剤と小さい錠剤であれば、高齢者にとってつかみやすく、飲み間違えないサイズが望ましいという。

 

「老老介護で高齢者が介護にあたるなかでは、彼らにとって使いやすいものでなければならない。OD錠も一見良さそうにみえるが、一包化して30日も置いておくと崩壊してしまう可能性がある。これでは使えない」(荒井社長)

 

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 このようにメーカーに対して地域医療、<居宅系>へのターゲッティングの重要性を強調するなか、講演は終盤を迎える。

 

 最後に私たちから製薬企業の方々に提案があります。がん治療をはじめとする最先端の医療を自宅で受けられる体制を作るために、私たちは以下の4つの取り組みに邁進しています。

 

①保険薬局における抗がん剤処方の規制緩和

 

②薬局薬剤師に対するオンコロジー・スペシャリストの育成

 

③将来に向けた地域ネットワークと物流網の構築

 

④治験、製造販売後調査、薬局を利用しての臨床研究の強化

 

 この4つの取り組みを実現することで、「薬剤師が抗がん剤の処方を調製できる」「MR、薬剤師、訪問看護師、モニターが最新情報を共有できる」「<居宅系>に合った医薬品開発をするため薬剤師もモニタリングに参加する」——という体制を作っていきます。

 

 このような地域医療の高度医療化支援……いわば『街の病棟化』を実現するためには、私たちの傘下の企業(CRO、調剤併設型ドラッグストア、訪問看護ステーション)だけでなく、製薬企業の皆様の力が必要不可欠です。是非とも一緒に手を取り合って、全ての国民が安心して最新の医療を受けられる体制を作っていきましょう。

 

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 30分という短い講演だったが、その内容は——

 

◆高齢化進展によりがん治療を初めとする高度医療が「病院」から「地域」へ移行する

 

◆全く整備されていない「地域」での高度医療の実施に向け早急に動く必要がある。

 

◆調剤薬局チェーンとして「地域=自宅」を知る我々は、CRO—SMO—薬局—訪問看護施設を傘下に置き、すでに動き出している。

 

◆その最終的な目的は「街の病棟化」にある

 

——という、他のどの企業も提示していない斬新なものだった。

 

・「街の病棟化」とは、具体的にどのようなプロセスで実現していくのか?


・CRA、CRC、薬剤師、訪問看護師はどのような役割を果たすのか?

 

 浮かんでは消える興味と疑問。「一度腰をすえて、じっくりと話を聞いてみたい」 そんな気持ちを喚起させてくれた講演だった。(有) 

 


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