トイレ掃除を推奨する宮城県薬剤師会の生出泉太郎会長。
「トイレ掃除? なぜだ」。 宮城県薬剤師会の生出泉太郎会長は、岐阜県から派遣された薬剤師が避難所でトイレの掃除をしていると聞いて驚いた。震災の3月11日、東京で開かれた厚労省の検討会に出席していた生出会長は、一緒にいた県薬役員の知人から車を借りて、仙台に帰ってきた。その生出会長のもとに、一枚のメモが届いたのは3月15日だ。
「ボランティア沢山送ってください」。
震災後、連絡が取りにくくなった石巻医薬品センター薬局の丹野佳郎センター長が、仙台市に向かう運送業者に託したものだった。医薬品も足りないが、薬剤師も足りなかった。16日に県薬の先遣隊チームが石巻市を訪れると、丹野センター長は石巻赤十字病院でボランティアをしていた。石巻薬剤師会営の医薬品センター薬局は津波で水没してしまった。丹野センター長は走って津波を逃れたが、赤十字病院からの応援要請を受け、自転車で瓦礫の山を越えて駆けつけたのだという。
赤十字病院薬剤部には、津波で薬を流された患者が殺到していた。半数近くの患者には薬の記録がなく、処方せんを作るにも過去の服用履歴がわからない。赤十字病院の1階フロアで患者を診察する医師の傍らで、薬剤師が薬の確認をする。厄介なのは後発品だ。種類が多くて、同種同効薬を調べるのが大変だ。処方せんを作るだけで忙殺される。どこの病院でも、薬剤師が足りなかった。
避難所でも同様だ。県立石巻高校に設置された避難所では、医師2人、薬剤師1人態勢での診療が続いた。次々と届けられる薬の整理や後発品との同効薬を調べる薬剤師の負担は大きかった。
県薬は18日に対策本部会議を開き、薬剤師班のボランティアを1チーム2人とし、50組を募ることにした。約70人の応募があったものの、被災地の過酷な環境で自活できる人となると限られてくる。25人を確保するのが今のところ精一杯だ。
宮城県には、秋田県薬剤師会など近隣の県からボランティアが被災地に入っている。避難所生活が長期化するに連れて、現場のニーズが変わってくる。風邪薬、便秘薬、下剤などの市販薬を求めてきたのは秋田県薬のチームだ。このほかにも、消毒薬やトイレ掃除用の洗浄液やデッキブラシ、ゴム手袋などの要望がある。
岐阜県から被災地にボランティアで入ってくれていた薬剤師から「トイレ」の話を聞いたのはこんな時だ。「トイレ掃除も重要な仕事のひとつ」。
つまりこういうことだ。トイレが汚れていると、被災者がトイレに行きたがらなくなるから便秘になる。排便を避けるため、食事や水分もなるべく摂らない。すると体調を崩し、精神的な負担にもつながる。生出会長はすぐにトイレ用の消毒・殺菌用の薬剤を調達し、被災地へ向かう薬剤師に持たせた。
「薬剤師はまずトイレ掃除からだ」。