法政大学 デザイン工学部
教授
小林尚登 氏


 法政大学デザイン工学部の小林尚登教授が、都内の認知症グループホーム(9床)の入居者を対象に行なう睡眠の実証実験について講演した。使用機器はタニタ(東京・板橋)のネット対応型睡眠計、「SL-511」。同機は寝具の下に引いて使うタイプの製品で、対象となる患者の呼吸・脈拍数などから睡眠状態を測定することが可能だ。データは専用サーバーにリアルタイムで送られるため、管理者が遠隔操作で解析結果を見ることができる。年々減少傾向にある日本人の平均睡眠時間に反比例するかごとく成長を遂げる睡眠ビジネス。講演終了後、小林教授に話を聞いた。


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——実際の医療現場で遠隔管理の睡眠ツールを利用することのメリットは何ですか。

◆患者に対して、介護士の過度な見回りを避けることができるため、介護士が自ら、「何もしなくていい」時間を把握できるようになる。結果として、彼らの厳しい労働環境を改善し、雇用の確保にもつながる。加えて、介護の質も上がる。


——得られたデータを今後どう活用しますか。

◆データを蓄積して、「ビッグデータ」(※)にして解析する。患者個別の傾向をつかむことで、病気を予防することができるなど、さまざまな可能性がある。私が実験を行なっているグループホームではないが、(睡眠データの取得と並行して)ある患者のトイレの回数をチェックしていたところ、膀胱炎の症状が判明した、という実例もある。これは患者本人も気づいていなかった。データを24時間・365日くまなく取っているため、こういった小さな変化に気付くことができる。データは宝の山だ。



——今まで以上にさまざまな情報がデータとして上がってきます。これらを使って製薬業界とタッグを組んで新たなプロジェクトを立ち上げることができる可能性は。

◆たとえば、患者の脳活性度が低下した際、どの薬を投与すれば良いのかなどが、製薬企業と組んでいれば(必要な情報が即座に)分かる。だから可能性は「ある」といえる。とにかく日々のデータを持っていないと、薬を飲んだところで、体調がどう変わったのが分からない。そのようなことからも、データを1年中計測することには大きな強みがあるといえる。

——最後に。

◆現在、アマゾンのクラウドサーバーにデータをためている。データ処理の精度を上げることで、今後、意味のある知見を引っ張り出していきたい。


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※ 整理されていない莫大な量のデータのこと。インターネット時代の到来で急激に増えたといわれている。それらのデータを構造化し、解析することで病気の予防などにつながる利点があるとされている。