埼玉医科大学総合医療センター
血液内科教授
木崎 昌弘氏
セルジーン社はプレスセミナーで「今だからこそ正しく知りたい“血液がん”」を開催した。骨髄異形成症候群(MDS)の事例からという副題がついていて、埼玉医科大学総合医療センター血液内科の木崎昌弘教授が講演した。
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骨髄異形成症候群(MDS)は、血液と骨髄の病気である。血液細胞を作る造血幹細胞に異常が起こる。厚生労働省から難病に指定されており、患者数は約一万人と推計されている。
骨髄は、血液細胞の製造工場である。まず造血幹細胞(自己複製能と多分化能を有する)があり、骨髄系前駆細胞とリンパ系前駆細胞に分かれている。骨髄系は赤芽球が赤血球を、巨核球が血小板を作り出す。また好中球、好酸球、好塩基球、単球もつくる。リンパ系はT細胞とB細胞があり、前者は白血球を作り出している。それぞれの役割をみると、赤血球は肺で酸素を受け取り、全身に運ぶ、寿命は約120日。血小板は出血に際し、血液を固め、止血に働く。寿命は約7〜10日。白血球は体内に侵入してきた異物の除去に働く。寿命は好中球が数日、リンパ球は数日から数十年。
MDSは理解しにくい血液疾患で本態として二つの側面を持つ。①血球減少。骨髄不全②将来、急性骨髄性白血病に移行する。前白血病状態。そして男性の高齢者に多く、治りにくい。また患者さんによって症状がさまざまである(軽症から白血病に近い重症まで)。治癒を期待できるのは造血幹細胞移植のみである。有効な治療手段がないのが現状である。発症の原因は不明で、遺伝はしない。リスク因子としては、男性、60歳以上、癌化学療法や放射線療法の治療歴、喫煙、ベンゼンなどの化学物質の曝露歴、水銀、鉛など重金属の曝露歴などが考えられる。
MDSの症状は、造血幹細胞の異常で形態異常(異形成)となり、機能不全となり、成熟血液細胞の減少(無効造血)へとつながっていく。赤血球=貧血になりやすくなる(めまい、だるさ、疲れやすさ、息切れ、動悸など)。血小板=出血しやすくなる(青あざ、鼻血、歯茎からの出血など)。白血球=感染しやすくなる(発熱、かぜ、肺炎、口内炎など)。診断は、問診、病床症状。末梢血。骨髄検査。染色体異常。
治療は三つの方法に分けられる。
①治癒をめざした強力な治療=同種造血幹細胞の移植で、リスクを伴うので年齢、身体状態などをよく考慮する必要がある。
②比較的穏やかな治療=化学療法剤(抗がん剤)による治療で芽球の多い中間〜高リスクMDSが対象。
③穏やかな治療=不足した血液細胞を輸血などで補う支持療法である。
MDSの病態解明に関する研究は進歩しているし、新しい薬剤の開発も行われている。(寿)