福島県立医科大学会津医療センター準備室
整形外科教授
白土 修氏
社団法人日本整形外科学会は例年「運動器の10年・骨と関節の日」と銘打って記念事業を展開している。ことしの記者説明会では、福島県立医科大学会津医療センター準備室の整形外科教授・白土修先生が演述した。演題は「ロコモティブシンドローム対策としての“腰みがき”のすすめ」。非特異的腰痛(慢性腰痛症)に対する運動療法の意義について、であった。
◆ ◆
腰痛は、日本人にとってもっとも身近な症状の一つである。男性では、有訴率(自覚症状を訴える人の割合)の高い症状の第一位が腰痛で、女性では肩こりに次いで第二位で腰痛となっている。しかし数の上では男性を大きく上回っている。人口1000人対の統計では、男性87.4、女性117.9である。ちなみに女性の肩こりは131.1。
整形外科医は、患者さんが診療室に入ってきて、椅子に座るまでの姿勢を注意深く観察している。いつ、何がきっかけで痛むようになったのか、どんな痛みかなどを問診で聞き、触診などを行ったあとX線写真、CT、MRIなどの画像診断を駆使して、原因をつきとめようとする。しかし、画像で異常所見が認められても、腰痛の有無とは相関しないことのほうが多い。腰痛を訴える患者さんに、原因はここですとはっきり示せないケースが少なくない。それでは画像診断は無意味かというと決してそうではない。腰痛の背後に隠れている悪性腫瘍(がん)の腰椎転移、化膿性脊椎炎などの感染症、圧迫骨折などの外傷の鑑別診断には、画像データは不可欠である。
このように原因を特定できる腰痛を「特異的腰痛」と呼んでいるが、その頻度は腰痛全体の15%以下といわれている。したがって85%以上は、原因を特定できない「非特異的腰痛」ということになる。
あえて原因を探れば、腰部を守るボディメカニクス(生体力学)全体になにかしらの異常が起きている。局所の機能低下、協調不全などの積み重なりと考えれば、一種のロコモティブシンドロームであると捉えることができる。腹筋や背筋など背骨を支える筋肉群を体幹筋というが、これが弱ると腰にかかる負担が大きくなり、腰痛を起こしやすくなるのである。体幹筋の機能不全には、量的異常と質的異常とが存在する。前背は筋力・筋持久力の低下で、後背は神経と筋肉の協調運動にひずみが起こっていると考えられている。
そこで提唱したいのが「腰みがき」である。姿勢と運動に要注意の10か条である。
①背筋を伸ばす
②お腹に力を入れる(立ち姿勢)
③お尻をすぼめる(立ち姿勢)
④膝を軽く曲げる(立ち姿勢)
⑤椅子に深く腰かけ、机に近づく
⑥膝を曲げて寝る
⑦うつぶせで寝ない
⑧膝を曲げて荷物を持ち上げる
⑨急に体をひねらない
⑩毎日かかさず運動を。
(寿)