慶應義塾大学医学部
リウマチ内科教授
竹内 勤氏
「関節が痛む」「指や手首が曲がる」「いわゆる“おばあさん”の病気」というイメージをもたれがちな病気・リウマチ。以上のような見方が大幅に間違っているわけではないが、説明が足りないことも事実だ。有病率が0.5〜1%、国内で70〜100万人の患者がいると推定されるメジャーな疾患で、発病後、10年で半数の患者が寝たきりになってしまう——という自己免疫疾患・リウマチの治療を巡る最新事情を知るべく、慶應義塾大学医学部リウマチ内科の竹内勤教授の講演を聴いた。演題は「関節リウマチ:新しい分類基準の意義と最新治療」(ブリストル・マイヤーズ メディアセミナーより)。
関節リウマチの特徴は、進行性であり全身性であり炎症性であることです。その症状は微熱、倦怠感といった全身性の症状があり、関節の炎症、痛み、変形といったもあります。輸血では感染せず、発病にあたっての遺伝的な影響は30%程度と見られています。つまり、環境的な影響が70%と大きく、喫煙が原因の一つであることも明らかになっています。そして、最も怖いのが発病後10年後には、半数の患者が高度の寝たきり及び機能障害になってしまうということです。
関節リウマチはどのような病気なのか? 簡単にいえば、「血管が新たに作られる際に免疫が浸潤してしまい、質の悪い関節液が出来てしまう」ことで炎症が起き、関節が壊れてしまうという自己免疫疾患です。
関節破壊のプロセスは、骨粗しょう症→骨びらん→亜脱臼→強直という段階を経て進行します。この関節破壊のプロセスは不可逆的なもので、一度悪化してしまったら二度と完治することはありません。
このような病状の関節リウマチ。これまでは発病後、10年ほど経ってから関節破壊が始まるものと考えられていたが、最近の研究により発病から1〜2年後には関節破壊が本格的に進むことが明らかになっている。つまり、かつてのような「リウマチには痛み止めで対処する」という治療法では、関節破壊がとめどなく進み、寝たきりや機能障害に陥ってしまうことが避けられないということだ。
関節リウマチの薬には、非ステロイド系抗炎症薬、ステロイド薬、抗リウマチ薬の3つがあります。このうち非ステロイド系抗炎症薬とステロイド薬は痛みや炎症を止めるもので、いわば対症療法に使うものです。炎症と関節破壊を止めるのは抗リウマチ薬しかありません。現在の治療ストラテジーは、「痛みを抑え、かつ関節破壊を食い止める」というものです。
発病後、1〜2年後には関節の30〜40%にキズがつき、かつ、一度ついたキズを治すことは不可能——というリウマチの治療にあたっては、早期診断が必要不可欠です。
ここでリウマチの診断方法について振り返ってみると、かつて使われていた関節リウマチ分類基準である「ACR1987年」(図4)では、「患者の全例が分類基準を満たすのに5年かかる」「患者の80%が関節リウマチと診断されるまでに2年かかる」ものでした。ここまでにご紹介したとおり、診断までに2年もかかってしまっては手遅れです。
なお、ここでいう分類基準とは、文字通り「リウマチ患者か否かを“分類”する」ために用いられるもので、これにより“診断”を確定するものではない。ただし、“分類”なので、リウマチ専門医でなくても基準を満たしているか否かで「リウマチと疑える患者」を分類することはできる。そのうえで、「リウマチと疑える患者」には、改めて専門医の診断を仰ぎ、リウマチと“診断”されれば本格的に治療する——という流れで治療が行われきた。
そこで新しい関節リウマチ分類基準が策定されつつあります。新しい分類基準では、患者を診た時点でのスコアの多寡で「関節リウマチが疑われるか否か」がすぐにわかります。この新基準については、昨年のリウマチ学会で「JCR新基準検証委員会」を発足させ、検証を進めてきました。新基準は早ければ今秋から使われることになるはずです。
リウマチの早期診断ができて、早くから痛みと炎症を抑え、関節破壊を防ぐ薬物治療をスタートすることができれば、リウマチの治癒も見えてきます。幸い、現在は寛解導入率が高く、維持も容易で副作用も少ない生物学的製剤も多く上市されています。このような抗リウマチ薬を効果的に使うことで、関節炎を治め、関節破壊を防ぐこと。これこそが現代のリウマチ治療に求められるものといっていいでしょう。
この秋にも導入される新たな分類基準の施行と、アバタセプトなどを初めとする新しい生物学的製剤による治療により、事実上、“不治の病”とされてきたリウマチを根治できるところまで視野に入れているとは……。この数十年で劇的に進歩しつつあるリウマチ治療の“現在”を知ることができた、有意義な講演だった。(有)