東京大学大学院
小児科教授
五十嵐 隆氏
日本医学ジャーナリスト協会の月例会で、東京大学大学院・小児科教授の五十嵐隆先生が演述した。演題は「わが国の小児医療の現状と問題点—予防接種を中心に」であった。
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小児医療に限らないが、たとえば呼吸器を専門にすると循環器はやらないといったサブスペシャリティがなくなってきている。心と体はわけることができないし、小児医療では感染症についても知っていなければならない。ハシカを診断できないようでは、大問題である。専門家でかつゼネラリストでなければならない。
経済的に恵まれている国の15歳の子供たちの中で「孤独だと感じている」子供の割合は、日本が突出して高い。OECD(経済開発協力機構)の加盟24カ国を調査した結果、ほとんどの国が10%以下なのに、わが国だけが30%となっている。人間関係が稀薄となった日本の社会を見事に反映しているといえる。高齢者の孤独死も増えているし、自殺者が24カ国中2位でもある。人間同士の有機的なつながりが喪失している。成熟した人間として持つべき情報、規範、価値観、心などについて次世代へ伝えることが大事であるのに……。
子供は「群れる」遊びを通していろいろな能力を獲得するものである。
①身体性(運動能力、体力など)
②社会性(コミュニケーション能力など)
③感性
④創造性を開発していくのである。
現代の社会はこれを阻害している。群れて遊べない子やあそばない子は、これらの能力を開発する機会を失っている。学校以外ではボーイスカウトかガールスカウトぐらいしかない。
OECD24カ国中、日本は10番目に子供の貧困率が高い。20歳未満の子供の相対的貧困率(平均以下の群)は14.7%(7人に1人)で、増加傾向にある。母子家庭の母親の就労率が世界的に高いにもかかわらず貧困率の高いのがわが国の特徴である。貧困状態にある子供は社会的に排除されるのが通例で、小児虐待もまた深刻化している。年を追うごとに増えており、虐待を受ける子供の75%が4歳未満・0歳児が多い。
わが国の予防接種体制は、世界標準にはるかに及ばない。米国はA型肝炎をはじめインフルエンザまで10種類もの予防接種を行っているが、わが国はDPT三種混合、ポリオ、BCGの三種でしかない。DPTはハシカ、風疹でおたふくは入っていない。日本医師会を中心に予防接種推進キャンペーンが行われた(2010年秋)。「希望するすべての子供が公費で予防接種を受けられるように!!」。厚生労働省は、同時接種に制限を加えるのではなく、多価ワクチン製剤をわが国でも使用できるように推進すべきであり、また定期接種も増やすべきである。同時接種は、医学的に問題のない医療行為である。(寿)