6月末のG20サミット(主要20ヵ国・地域首脳会議)の前哨ともいうべきG20閣僚会議で、中国の発展途上国向けインフラ援助に対して、債務過剰をもたらすことを懸念する声明が出た。すでに問題になっているが、中国は一帯一路構想に基づき、東南アジアや太平洋の島嶼国、さらにアフリカ各国のインフラ整備に多額の経済援助を行っている。だが、援助を受けた途上国が返済できなくなると、中国は建設した港湾などのインフラ設備を半永久的に借りるということが以前から問題になっている。この中国の国策に懸念を示したものだ。
だが、G20の懸念は少々、弱すぎるのではなかろうか。かつてヨーロッパ諸国は発展途上国向け経済援助に付随する条件付けに対して厳しかったはずだ。例えば、日本のODA(政府開発援助)はほとんどが日本企業が受注するひも付きだった。これに対して欧米各国から猛烈な批判が巻き起こり、日本はひも付きを極力減らした。その結果、今度はひも付きではない経済援助は日本が世界一多くなり、ひも付きを批判していた欧米各国のほうがひも付き援助が多くなってしまったということが起こったほどだ。
さて、中国のインフラ経済援助はかつての日本のODAを模範にしたかのようなのだが、中国の場合は問題にされない。巨額過ぎるからなのか、それともヨーロッパ各国は経済が不振のため、あるいは、イギリスのEU離脱問題でそれどころではないのかもしれない。
それはともかく、中国のインフラ支援の問題は、受注するのが中国企業というひも付きであるだけではなく、仕組みにある。日本も欧米各国でも受注した工事の中身は設計であり、建設コンサルタント、あるいは工事の監督指導であり、彼らの指揮のもとで被援助国の企業が下請けになり、被援助国の労働者が働く。被援助国の労働者を使ったほうが安上がりだという理由によるものだ。
ところが、中国のインフラ援助では下請け企業も中国企業であり、労働者も中国からやって来る。地元の人が働くのは手押しの一輪車でブロックや土砂を運ぶくらいである。加えて、完成したインフラ設備は派遣された中国人が動かす。これでは被援助国には何の技術も残らない。中国のインフラ支援は援助金が元請けの中国企業、中国の下請け企業、中国人労働者に流れるだけで、中国人の間でカネが流れているのに過ぎない。中国以外の国の援助が、たとえ、ひも付きであろうが、現地人に鉄筋の組み方、設計図面の読み方、工事の仕方などを残すことができるのと比べれば、より問題だ。
そればかりではない。中国のインフラ援助では中国から中国人労働者が来るため、彼らの宿舎が建てられ、中国人労働者のための中華料理店や衣料品店、日用品店などが中国からやって来る。下請けとして働く中国人労働者が私的に使う消費も中国人が経営する商店に落ちるようになっている。被援助国に落ちるカネは一輪車で土砂を運ぶ単純労働の対価だけなのである。
これは格好よく言えば、「完結型受注」である。もっと言えば、インフラ完成後も商店は現地に残り、インフラ設備を操作する中国人や現地の人々に商品を売り、現地人に溶け込む華僑となる。ゆくゆくはチャイナタウンになるのだろうが、ひょっとすると、将来、彼らは「中国人が住んでいるのだから、国名はどうあれ、ここは中国の一部だ」ということになるのかもしれない。(常)