日本メンズヘルス医学会
理事長
熊本 悦明氏
日本医学ジャーナリスト協会の例会で、札幌医科大学名誉教授であり、日本メンズヘルス医学会理事長の熊本悦明先生が講演した。演題は「男性医学について——男をもっとしってほしい」であった。
◆ ◆
なんといっても、男性が女性より寿命が短い——というのが最大の問題点である。戦争がない平和な時代では、男女とも50歳の更年期までの生存率はほぼ同じである。その後の熟年世代の終る80歳頃までの期間に、大きな性差の開きが出てくる。それ以後の更年期になると、生存率カーブの下降率はほぼ平行していて、性差はほとんどない。したがって男女の寿命の性差は「熟年期」につくられているといってよい。
50歳以後の男女の死亡数を、人口動態総計の病因別集計から検討してみた。加齢による病因の大部分を占める重要な疾患は、悪性腫瘍と循環器疾患である。50〜80歳の熟年世代において、男性の死亡率は女性にくらべてかなり高い。悪性腫瘍による死亡は男性が約14万人、女性約7万人、循環器疾患による死亡は、男性約5万5千人、女性約2万6千人。実に男性は2倍も死亡している。私の推論としてはホルモンに原因があると思われる。
男性ホルモンにも女性ホルモンにも血管保護作用がある。50歳くらいまでの成人年代では、原則として動脈硬化は起きない。女性の場合、閉経後は女性ホルモンが急激に減退するが、成人期における女性ホルモンの保護効果が強力であり、その残像が熟年期まである程度残るので、急激な変化は起きない。しかし80歳を過ぎるとその保護効果が薄れ、動脈硬化機序が動き始めて、血管障害性の心疾患や脳疾患が増え病死につながるようになる。男性は、男性ホルモンの血管保護作用は女性ホルモンほど強力ではない。熟年期に入るとテストステロンが徐々に低下しはじめ、血管効果機序が進み、血管障害性死亡が徐々に出てくる。このような男・女性ホルモンの作用機序の差が50〜80歳代での生存曲線の大きな開きをつくっているのである。
男性は、加齢によるテストステロンの低下——内臓脂肪肥満の発症——メタボリック症候群——動脈硬化——勃起障害——心・脳血管疾患——熟年世代での死亡——熟年世代での生存率の大きな性差——男性短命という模式図ができる。
21世紀の医学として、男性の短い寿命問題に端を発して、メンズヘルスへの関心がもっと高まらなければならない。テストステロンの低下と男性短命との相関性は歴然たる事実として証明されている。低テストステロン男性の寿命予後が有意に短いことは、国際的にも本邦においても明らかにされている。早朝勃起の有無が、男性の健康、寿命に大きくかかわっている。この点を重視して、医師の検査をぜひ受けてほしい。(寿)