虎ノ門病院分院長
熊田 博光氏


 事実上、血液検査でしか見つけることのできない“沈黙の病気”であるC型肝炎。このやっかいな病気の治療法が、ここにきて大きく進歩しつつあるという。これまでの標準療法であったインターフェロンとリバビリンによる「2剤併用療法」より効果が高いとされる「3剤併用療法」。この新たな治療法はC型肝炎治療の未来を変え得るのか? 昨年11月に上市されたテラプレビルのメディアセミナー(田辺三菱製薬「テラビック メディアセミナー」)を取材した。

  

 C型肝炎の恐ろしいところは自覚症状がほとんどないところにある。自覚症状があったとしても、その症状は「疲労」「食欲不振」などで、「ハードな仕事を終えたとき」や「かぜ気味」のときの状態と全く変わらず、その症状から病状を探ることは極めて難しい。同じように自覚症状の少ない糖尿病——自覚症状は「異常なほどののどの渇き」「頻尿」「手足のしびれ」など——よりも始末が悪いといえよう。実際、病気が見つかるのは血液検査であることがほとんどだ。

 

 そんなC型肝炎の患者は、C型肝炎ウイルス(HCV)に感染しているものの症状の出ていない「無症候性キャリア」で150〜200万人、年間の「受診患者」で40〜50万人と推定されている。そして、HCVに感染した人のうち、約70%は慢性化してしまい、これを放置しておくと20〜30年で肝硬変、肝臓がんに進行するという。

 

 C型肝炎を治療する現時点で唯一の方法が、HCVを体内から排除する「抗ウイルス療法」だ。現在の標準療法は、ペグインターフェロンとリバビリンの<2剤併用療法>。治療期間は48週間で、SVR率50%未満という効果が得られる。

 

*1:SVR率(=ウイルス持続陰性化率。インターフェロンによる治療終了6カ月後のウイルス陰性化率)

* 2:上記結果はジェノタイプ1、高ウイルス量患者のケース

 

 かいつまんで言うと、「<2剤併用療法>を1年弱続けることにより、治療終了半年後で約半分のC型肝炎ウイルスを排除できる」ということ。同治療法以前のインターフェロンとリバビリンの2剤療法(治療期間24週間。SVR率20〜30%)に比べて有意に高い実績を残しているといっていい。

 

 しかしいまや、この<2剤併用療法>についても、「治療期間が1年弱と長い」「SVR率が50%未満と有効性が低い」との声が上がってきつつある。もちろん、C型肝炎治療が不可能と見なされていた時代や、インターフェロン製剤黎明期に比べれば、現在の標準療法でも“夢の医療”といえよう。しかし、“完治”までには程遠い距離があることも事実だ。

 

 こうしたC型肝炎治療の課題を解決すべく、「治療期間の短縮」「有効性の向上」を狙ったのが、テラプレビルを加えた<3剤併用療法>だ。


 ペグインターフェロンとリバビリンの<2剤併用療法>にテラプレビルを加えた<3剤併用療法>で、3剤を併用投与する期間は12週間。その後は<2剤併用療法>を12週間続けることで、治療期間は24週間と従来の半分に短縮している。


 SVR率は、国内臨床試験(フェーズⅢ)の結果によると、初回治療例で73.0%(126例)、前治療再発例で88.1%(109例)で、<2剤併用療法>の49.2%(63例)を上回っており、前治療無効例でも34.4%(32例)という実績を残している。


 この結果をかいつまんで言うと、「<3剤併用療法>を半年ほど続けることにより、治療終了半年後で約7〜8割のC型肝炎ウイルスを排除できる」となる。この国内臨床試験通りの結果を出し続けると仮定するなら、治療期間と有効性の点で見れば、従来の標準療法に比べて飛躍的な進歩があったといえるだろう。


 しかし、<3剤併用療法>には「重篤な副作用の発現率が、<2剤併用療法>よりも高い」という問題がある。副作用発現率はどちらの治療法でも100%だが、皮膚障害(スティーブンス・ジョンソン症候群、薬剤性過敏症症候群)や貧血・ヘモグロビン減少といった重篤な副作用は、<2剤併用療法>の6.3%に比べ、<3剤併用療法>では9.4%と有意に高くなっている。


 発売元の田辺三菱製薬では、テラプレビルを「安全性対応最重視製品」と位置づけたうえで、使用にあたっては全例調査(3000例)を実施。そのための対応として以下のような厳しい契約と流通管理を徹底するとしている。


 加えて、発売後1年間は四半期ごとにテラプレビルの適正使用委員会(委員長:熊田博光虎ノ門病院分院長。肝臓専門医6名、皮膚科専門医3名、血液専門医1名、眼科専門医1名)を開催。同委員会は緊急時には随時招集し、全例調査で収集した情報の検討や医療機関へのフィードバックを行うという。


前治療再発例でのSVR率が88.1%と、C型肝炎の“完治”に手の届きそうな実績を残しながらも、1割弱の重篤な副作用発現率を抱えた、極めてクセの強い薬であるテラプレビル。同剤を用いた<3剤併用療法>が、未来の標準療法の礎となるのか? これからの動きに注目していく必要がありそうだ。(有)