食事制限、運動療法に続く“第三の予防法”とは(2008.11.19)
財団法人京都工場保健会診療所
武田和夫所長
「糖尿病は治療が難しい病気。だから、なる前に防ぎたい」——。とは誰もが考えることだろう。しかし、効果的な予防・対策法は? と問われると、食事制限や適度な運動くらいしか思いつかないものだ。そんな糖尿病対策に“食物繊維”が効く! というのが今回の講演だ。世間一般では、“食物繊維”といえば、「便秘に効く?」くらいの認識しかされていないが、果たしてどのような形で糖尿病に効くのか?
テーマは「食後高血糖改善による糖尿病発症抑制の試み」(財団法人京都工場保健会診療所・武田和夫所長 主催:大塚製薬㈱)。
皆様ご承知の通り、わが国の糖尿病患者は増え続けています。患者数はこの4年間で約250万人増加していまして、年度別の患者数を見てみると90年から97年までにほぼ倍増。2010年には90年の3倍にまで膨れ上がることが確実視されています。
糖尿病を放置しておけばどうなるか? 血管合併症による心疾患、脳梗塞のリスクが高くなるだけでなく、糖尿病網膜症の悪化による失明、糖尿病腎症の悪化による腎不全(人工透析が必要になります)、閉塞性動脈硬化症の悪化による足の壊死(最悪、切断の必要があります)と、極めて深刻な合併症を引き起こすことになります。実際、糖尿病は、透析患者の原因疾患、下肢切断病原の原因でトップ、後天性失明原因で2位を占めています。
このように合併症が恐ろしい糖尿病だが、とりわけ怖いのが<食後高血糖>だという。一般に健康診断で計測する血糖値は空腹時血糖値だが、食後1〜2時間に急激に増加し、その後急減する<食後高血糖>。これが高く、また食後いつまで経っても下がらない場合には、どうなるのだろうか?
食後血糖値が高ければどうなるか? 結論から言えば死亡リスクが高くなります。空腹時血糖値よりも食後血糖値の方が死亡リスク、心疾患リスクを左右することが明らかです。心血管死亡率と糖負荷後2時間血糖値との相関関係を調べた研究結果を見ても、血糖値の高さと死亡率の高さが比例して伸びていることが分かります。空腹時血糖値が高いことも怖いのですが、それ以上に食後高血糖が高いことは怖いといっていいでしょう。
なぜ、食後血糖値が高いことは怖いのか? 結論から言うと、これによって血管に様々な悪影響が出てくるからなんですね。エンドセリン分泌、たんぱく質の糖化、フリーラジカルの生成……こうした要因が複雑に絡み合うことで動脈硬化が進み、結果、心疾患リスク、死亡リスクが高くなるというわけです。
ともすれば見過ごされがちな<食後高血糖>。これが高くなってしまうことで懸念されるリスクは、糖尿病患者に限らず“境界型”(いわゆる糖尿病予備軍)の人でも無視できないほどとのこと。逆に言えば、「食後の血糖値を下げられれば、死亡リスク、心疾患リスクも下げられる」とも言えそうだが……。
そこで私たちは、食後血糖上昇の抑制作用がある難消化性デキストリンを3カ月連用させ、その前後で血糖値を図る試験を行いました。結果は目覚しいもので、体重と腹囲、BMI、血圧、TG(中性脂肪)、LDL(善玉コレステロール)の全ての数値が、難消化性デキストリン連用後で改善。食後血糖値では正常血糖群に比べて高血糖群(境界型や糖尿病患者)で顕著に低下することが明らかになりました。
これらの結果から、「難消化性デキストリンの服用を含めた生活習慣指導は、食後血糖値の上昇を防ぐとともに、インスリン分泌機能を改善。さらには糖尿病初期状態を改善することが示唆される」と語り講演を締めくくった。BMI、血圧、TG、LDLなどの各数値の改善については、難消化性デキストリンの効果というより、「恐らくは『減量効果』によるもので、難消化性デキストリンの服用によるものか、あわせて行った生活習慣指導によるものかはハッキリと言い切れない」とのことだが、食後血糖値を有意に引き下げる効果は間違いないといっていい。「最近メタボ気味で……」という人にとっては気になる話題ではないだろうか?
(有)