頭を雲の上に出し 四方の山を見下ろして
雷様を下に聞く 富士は日本一の山
小学校唱歌である。この頃の子供たちは、この歌を知っているのであろうか。富士山は昔、「不二山」といった。「二つと無い」山という意味である。文字どおり、日本一なのである。越中おわら節の囃子(はやし)ことばにも「越中で立山、加賀では白山、駿河の富士山、三国一だよ」というのがある。普通、「三国一」という場合の三国は、天竺、唐、大和のことであるが…。
長野県歌の歌い出しは「信濃の国は十州に」となっている。箱根には十国峠がある。「じっしゅう」「じっこく」と読むが、三国峠、三国街道の場合は、「みくに」である。「さんごく」ではない。その昔、「旧中山道」(きゅうなかせんどう)を「いちにちじゅうやまみち」と読んだ女子アナウンサーがいて、局をクビになったという事件があった。
魏志倭人伝の魏と蜀と呉の争いを書いたのが「三国志」である。関羽、張飛、諸葛亮孔明、司馬仲達、馬謖、曹操、劉備玄徳、孫堅といった登場人物の名がスラスラと出てくる。「赤壁の戦い」は「レッドクリフ」という題名で映画化された。現代の三国志は、さしづめ中国、韓国、靖国であろうか。
鹿児島の開聞岳(かいもんだけ)、鳥取の大山(だいせん)、山形の鳥海山、青森の岩木山などなど、地方で富士山になぞらえられている山はたくさんある。地名も富士見町、富士見台、富士見が丘と、昔はそこから富士山を眺望できたことを表している所が数多くある。富士見台は「不死身だい」に通じるので、さぞかしご長寿の方が多いであろう。
初夢や 一富士二鷹 三茄子(なすび)
富士山の夢を見ることは、やはり一番縁起がいいとされてきた。
不二越、不二家といった社名、店名もかなりある。不二家のキャラクター・マスコットはポコちゃんとペコちゃん。こんな小咄(こばなし)ができている。汗をかいたのでシャワーでも浴びようと、男の子のポコちゃんが浴室のドアを開けた。すると女の子のペコちゃんが風呂に入っていた。「アッごめん」といって、ポコちゃんはあわててドアを閉めたが、ペコちゃんがひとこと言った。「見る気ー」。
サザエさんの一家がデパートへ出かけた。店員さんはなぜかワカメちゃんだけをチヤホヤして、他の6人は無視された。ワカメは海藻(買いそう)だから。
新茶が出回る季節になると、なぜか欲しがる男の子がいる。「くれよ新茶」(クレヨンしんちゃん)。
煎茶、緑茶、ほうじ茶などいろんなお茶があるが、子供が欲しがるお茶は?「おもちゃ」。
真夏日、猛暑日が続き、ついに40度を超すところも出てきた。涼しさを感じる一首を。
田子の浦ゆ うちいでてみれば 真白にぞ
富士の高嶺に 雪の降りける(山辺赤人)
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松井 寿一(まつい じゅいち)
1936年東京都生まれ。早稲田大学文学部卒業。医療ジャーナリスト。イナホ代表取締役。薬業時報社(現じほう)の記者として国会、厚生省や製薬企業などを幅広く取材。同社編集局長を経て1988年に退社。翌年、イナホを設立し、フリーの医療ジャーナリストとして取材、講演などを行なうかたわら、TBSラジオ「松チャンの健康歳時記」のパーソナリティを4年間つとめるなど番組にも多数出演。日常生活における笑いの重要性を説いている。著書に「薬の社会誌」(丸善ライブラリー)、「薬の文化誌」(同)などがある