スポーツ愛好家の健康を守る


 秋である。


 厳しかった夏の日差しがようやくなりを潜め、体を動かすことを敬遠していた人も、気持ちの良い陽気に誘われてスポーツをしたくなる時期ではないだろうか。


 平成23年に総務省が行った調査によると、10歳以上の人口において過去1年間でスポーツをした人の数は7184万3000人、行動者率は63.0%と報告されており、6割以上の人が意識的になんらかの運動を行っていることが分かる。


 運動の種類別に行動者率をみると、「ウォーキング・軽い体操」が 35.2%と最も高く、近年のジョギング、ウォーキングブームを反映してか、前回調査を行った5年前に比べて「ジョギング・マラソン」、「ウォーキング・軽い体操」、「サイクリング」の行動者率の上昇がみられた。特に、65歳以上で「ウォーキング・軽い体操」の行動者率の上昇が大きく(総務省 平成23年社会生活基本調査より)、健康に対する意識の高い高齢者が増加していることが伺えた。


 子供から高齢者まで国民の6割以上がスポーツに関心を寄せ、なんらかの運動を行っている我が国に、国民が適切に運動を行い、健康的な生活を送るためのサポートをしてくれる“スポーツファーマシスト”という医療従事者がいることをご存知だろうか。


 スポーツファーマシストは“ファーマシスト”という名の通り、薬剤師の資格を持った者が規定の講習を経て試験に合格することにより、日本アンチ・ドーピング機構から認定を受けて授かることが出来る資格で、現在約6000人が認定を受けている。


 スポーツファーマシストの有資格者は主に日本各地の病院や薬局に勤務しているので、運動や健康についての相談がある人は誰でもいつでも訪ねていくことが出来る。


「スポーツファーマシストが勤務している薬局には、資格所有者が在籍していることを示すステッカーが貼ってあります。どんなことでも気軽に相談してほしい」


 スポーツファーマシストとして江戸川区薬剤師会のスポーツファーマシスト委員会で活躍しつつ、日本初のスポーツファーマシストによるドーピング防止事業を行う「株式会社アトラク」を立ち上げ、スポーツファーマシストが活躍する場を広げるための活動をしている遠藤敦氏がそう教えてくれた。



 本格的に運動をする人は、入会したジムや所属しているチームにスポーツトレーナーや指導者がいるため、運動に関する疑問や悩みを比較的相談しやすい環境にあるといえる。しかし、趣味や健康のために運動をしたい人では、気軽に運動についての相談が出来る専門家というのは、意外と少ないのではないだろうか。そこで、アマチュアのスポーツ愛好家や、楽しみや健康のためにスポーツに取り組みたいという人には、ぜひスポーツファーマシストを頼って頂きたい。


 ただ、スポーツファーマシストはまだ私たちになじみがある職業とはいえず、いきなり訪ねて行くには敷居が高いかもしれない。


 スポーツファーマシストたちはどのような活動をしているのか、さらに遠藤氏に伺った。


アンチドーピング活動と地域の人たちの健康を守ることが使命



「スポーツファーマシストの役割は、大きく二つあります。ひとつは競技者に薬物の情報提供をし、サポートをすること。もう一つは一般の方に対して薬物の適正使用をお伝えしていくことです。その教育活動の一環として、アンチ・ドーピングについて、一般の方の認知を高める活動をしていきたいと考えています」


 アスリートたちが使用や服用を禁止されている物質は、世界ドーピング防止規程の禁止表国際標準 (Prohibited List) に定められており、毎年1月1日に更新される。禁止物質には、「常に禁止されている物質」「競技会の時だけ禁止される物質」「特定の競技において禁止されている物質」といった分類があるため、競技者は服用・使用薬を入念にチェックする必要がある。さらに、市販の医薬品やサプリメントにも禁止物質が含まれていることがあるので注意が必要だ。


 例えば禁止物質のひとつであるエフェドリンは、市販の風邪薬に多く含まれるので、知らないうちに服用してしまい“うっかりドーピング”をする可能性が高い薬物のひとつだ。うっかりドーピングから選手を守ることも、スポーツファーマシストの腕の見せ所だろう。


 ただ、遠藤氏によれば、プロアスリートと契約をしているスポーツファーマシストは全体の1%以下でほんの一握りであることから、スポーツファーマシストの最も大きな活躍の場は、一般のスポーツ愛好家にあるといえる。アマチュアのスポーツ愛好家などに対して体調管理、水分補給の仕方などの適切な運動方法を指導し、そして薬剤師としてドーピングが「薬物乱用」であることを啓発して、スポーツをするすべての人たちの健康を守ること。それこそが、今後スポーツファーマシストたちが担っていく役割であり使命となりそうだ。


「スポーツファーマシストは認定が始まってからまだ日が浅いので、残念ながらまだ一般の方に浸透しているとは言えません。今後は、地域の学校薬剤師やスポーツトレーナーと連携し、薬物の適正使用に関する教育活動のみならず、適切な運動の仕方に対するアドバイス、放置しておくと危険なけがや痛みの見分け方といった、スポーツに関わる包括的なアドバイスを行える環境を整え、地域の方の健康をサポートしていきたいです」


 遠藤氏は力強く語った。


 スポーツの秋。


 心と体を健やかに保ってくれるスポーツを楽しむために、街の薬局にいて心強いアドバイザーとなってくれる地域のスポーツファーマシストを訪ねてみてはいかがだろうか。(育)


遠藤敦氏プロフィール
公認スポーツファーマシスト
薬剤師、株式会社アトラク代表取締役社長