可愛くば 五つ教えて 三つほめ
   二つ叱って 良き人にせよ


 人生訓歌というか教導歌というか、とにかく子供を育てる要諦を詠んでいる。


 やってみせ 言ってきかせて させてみて
   誉めてやらねば 人は動かじ


 第二次世界大戦の最中、太平洋上空で散った山本五十六元帥の歌であると巷間(こうかん)伝えられているが、誤りである。誰が詠んだかわからないが、これも人情の機微をついている。


 人を育てるというのは大事業なのである。人・物・金が経済、ひいてはこの世の中を動かす3大要素といわれている。ここでも人が真っ先に出てきている。


 教育というのは、文字どおり教え育てることである。ところが教えることばかりに専念して、育てるということを忘れてしまっている場合が多い。幼少の頃から塾へ通わせて、何がなんでも一流校へという風潮が強いからである。いじめの問題がいぜんとしてあとを絶たない。大人の社会でも行われている。スポーツの世界でも暴力的指導が相変わらず行われていて、指弾を浴びている。


 どんな競技でも、ただ勝てばいいということではない。そこにはルールがあり、マナーが必要である。挙措(きょそ)動作、立ち居振る舞いが優雅であり、典雅であることが望まれる。教育の育てるという側面が大事になってくる。心身の修養である。品性を培うには教養も大切である。これがないと「貧性」になってしまう。

「きょういく」と「きょうよう」はボケ防止にも必要である。こちらは「今日行く」所はどこか、「今日用」があるのはなにか、と毎朝起きた時に考えることである。


「人は城、人は石垣、人は濠」といったのは、戦国時代に最強といわれた甲州軍団を率いた武田信玄である。つつじヶ崎に館を構えただけで、城というものを築かなかった。屈強で優秀な人材が揃っていれば、深くて大きな濠もいらなければ、高い石垣もいらない、まして強固な城など必要ない、という考え方である。これはもう「人財」といっていいであろう。


 歴史をひもといて分かることは、「時代が人を生み、人が時代を作る」ことである。英雄豪傑から民百姓まで、それぞれがそれぞれの役割分担をになっている。まさに「人生劇場」なのである。通行人AもBも、なくてはならない存在である。どんな端役でも、いなければドラマは成り立たない。


「立身出世」と「知足安分」は対句になっている。足るを知り、分に安んじて努力すれば、立身出世につながるという意味である。がむしゃらに己の栄達だけを考えて、あくせくとあがくことではないのである。


 子供叱るな来た道だ
 年寄り笑うな往く道だ
 往く道来た道一人道
 通り直しのできぬ道
 今日も往きます人の道

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松井 寿一(まつい じゅいち)

 1936年東京都生まれ。早稲田大学文学部卒業。医療ジャーナリスト。イナホ代表取締役。薬業時報社(現じほう)の記者として国会、厚生省や製薬企業などを幅広く取材。同社編集局長を経て1988年に退社。翌年、イナホを設立し、フリーの医療ジャーナリストとして取材、講演などを行なうかたわら、TBSラジオ「松チャンの健康歳時記」のパーソナリティを4年間つとめるなど番組にも多数出演。日常生活における笑いの重要性を説いている。著書に「薬の社会誌」(丸善ライブラリー)、「薬の文化誌」(同)などがある