不動産投信導入の影響は…
一方、国民会議報告書は以下のように指摘している。
医療法人・社会福祉法人制度について、非営利性や公共性の堅持を前提としつつ、機能の分化・連携の推進に資するよう、例えばホールディングカンパニーの枠組みのような法人間の合併や権利の移転等を速やかに行うことができる道を開くための制度改正を検討する必要がある。(報告書28ページ)
つまり、「団塊世代」が2025年に75歳以上の後期高齢者になるのを前に、医療・介護のシームレスな受け入れ態勢を整備するための基盤として、医療法人や社会福祉法人のネットワーク化や再編・統合を進める考えを打ち出している。さらに、報告書は以下のように続く。
介護事業者も含めたネットワーク化や高齢化に伴いコンパクトシティ化が進められているまちづくりに貢献していくことも見据えて、医療法人や社会福祉法人が非営利性を担保しつつ都市再開発に参加できるようにする制度や、ヘルスケアをベースとしたコンパクトシティづくりに要する資金調達の手段を、今後慎重に設計されるべきヘルスケアリート等を通じて促進する制度など、総合的な規制の見直しが幅広い観点から必要である。(同)
医療法人や社会福祉法人がまちづくりに参画することで、在宅を中心に医療・介護・生活支援サービスを提供する「地域包括ケア」を目指す考えを打ち出している。
ここで注目すべきは「ヘルスケアリート」の文言。不動産の賃貸収入を財源に証券を発行して資金調達するリート(不動産投資信託)を健康福祉分野に拡大することをうたっている。高齢化した団塊世代の受け入れ先として、リートの資金を高齢者向け住宅の整備に活用しようというわけだ。確かに民間資金の活用は有効な手段であり、国土交通省も2014年度予算概算要求で、ヘルスケアリートを推進するための調査経費を計上している、
しかし、闇雲に量の拡大や効率性の追求に走れば、医療機関や介護事業者などサービス提供者による患者・利用者の「独占」が横行することになりかねない。患者・利用者の適切な自己選択を誘導する観点が欠かせない。
利用者評価の反映を
では、どうやって患者・利用者の自己選択の余地を広げるか。適切な自己選択には十分な情報が不可欠であり、サービス提供者やケアの内容に関する情報開示を通じた情報の非対称性の解消が不可欠になる。
現行制度を見ると、医療機関は「日本医療機能評価機構」による評価が実施されているが、組織運営や情報管理、職員研修など組織運営に関するデータが中心となっている。確かに医療技術や診断情報に関して、患者が専門知識の全てを理解することは困難だが、納得できるだけの説明を求めるのは当然であり、医療機関を選ぶ際の判断材料も必要になる。患者が適切に情報を判断できる評価・情報開示制度が必要ではないか。
介護に関しても特養などを運営する社会福祉法人を対象とした「福祉サービス第三者評価」の実施が義務付けられているが、2011年度の受診数は3349件。最大60万円の補助金を出している東京都内の法人が7割を占めている状況であり、全国的に普及しているとは言い難い。
一方、2006年度からスタートした「介護サービス情報公表制度」については、事業所の所在位置や職員数、提供しているサービスの種類だけでなく、利用者の権利擁護やサービスの質の確保、相談・苦情への対応、従業者の研修などを検索できる。さらに、2012年10月から「目的別」「市町村別」で情報検索が可能となり、使いやすさが向上した。今後は評価内容の精緻化とともに、例えば利用者の満足度調査なども加味するなどの改善が必要になるのではないだろうか。
参考資料
「社会保障制度改革国民会議」報告書
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丘山 源(おかやま げん)
早稲田大学卒業後、大手メディアで政策プロセスや地方行政の実態を約15年間取材。現在は研究職として、政策立案と制度運用の現場をウオッチしている