特定秘密保護法の強行採決に注目が集まった昨年末の臨時国会。重要法案が強引に可決されていく中で、医療や介護の将来を左右する「持続可能な社会保障制度の確立を図るための改革の推進に関する法律」も成立した。いわゆるプログラム法と呼ばれるもので、医療や介護、少子化対策などの大まかな検討項目、改革の実施時期と関連法案の国会提出時期の目途を明らかにしている。


 プログラム法は、おもに財政面から社会保障のあり方を見直すことを目的としているため、医療分野では健康の自己責任論を展開するとともに、後発医薬品の使用促進とそれに必要な措置をとることも盛り込まれている。


 2009年度の国民医療費は36兆円。そのうち、薬剤費は約8兆円で全体の2割を占めている。薬剤費が医療費の3割に上っていた90年代前半に比べれば低くなったが、今でも薬の負担が大きなことに変わりはない。そこで、医療費抑制策のひとつとして、国が進めているのが後発医薬品の使用促進だ。


 日本ではジェネリックへの抵抗感が強く、医薬品全体に占める後発品の割合は2005年9月時点で16.8%(数量ベース)に留まっていた。この割合を引き上げるために、2007年10月に「後発医薬品の安心使用促進アクションプログラム」が策定され、2013年3月までに後発品シェアを数量ベースで30%に引き上げるという数値目標が出される。そのために、2008年度から5年間で約25億円の予算をつけ、後発医薬品の使用促進をしてきたが結果は振るわず、2011年9月時点で22.8%までしか増えていなかった。


 2013年4月、厚労省は新たに「後発医薬品のさらなる使用促進のためのロードマップ」を発表。使用割合にカウントする後発品を、後発品のある先発品などに絞る新基準を設け、2018年末までに後発品シェアを60%に引き上げることを目標にした。財務省では、このロードマップが達成された場合の医療費削減効果を5300億円と試算している。



 ジェネリックは特許期間の切れた先発品と同じ有効成分、同じ含有量で作られた後発の医薬品だ。開発費用がほとんどかからないため、薬価は先発品の2〜7割。薬価だけ比べれば、先発品よりも安いのは事実だ。


 だが、保険診療による薬の処方には、薬剤料の他にも医師の処方せん料、薬局での調剤技術料や薬学管理料なども発生する。しかも、ここ数年は後発品の使用割合を高めるために、後発品を処方・調剤したほうが医療機関や薬局は利益が高くなる報酬体系を取っている。たとえば、2012年の薬価改定で見直された項目の一つに調剤薬局の後発医薬品調剤体制加算がある。それまでは、直近3カ月間の調剤の中で後発品割合が20%以上6点、25%以上13点、30%以上17点の加算だったが、2012年4月からは22%以上5点、30%以上17点、35%以上19点に変更された。つまり、ジェネリックの取扱いが多いほど薬局ほど報酬が高くなるようにメリハリをつけ、後発品の使用促進を図っているのだ。


 そのため、ジェネリックの使用が増えると薬剤費は安くなっても、病院や薬局の取り分が増えてしまうという矛盾が起こっている。こうした調剤報酬の体系で、果たしてジェネリックの普及は国民医療費の削減にどれだけ効果をもたらすのか。それを検証してみたのが下図だ。2011年度の1人当たり医療費(市町村国民健康保険)と後発医薬品の使用割合との相関を調べたものだ。


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 これを見ると、後発品の使用率が36.3%といちばん高い沖縄県は、1人当たり医療費も25.7万円でいちばん安い。また、後発品の使用率が低い徳島県、高知県、広島県、香川県は、いずれも医療費が高くワースト10位に入っており、一見すると後発品の使用率と医療費は因果関係があるようにも思える。


 ところが、後発品の使用率が29.3%と高く全国2位の鹿児島は、1人当たり医療費が35.8万円でワースト8位。島根県、山口県、長崎県、大分県も後発品の使用率は全国平均を上回っているのに、医療費はワースト10に入っている。また、東京都は1人当たり医療費が全国5位の安さだが、後発品使用率は低くワースト3位。神奈川県、栃木県、茨城県、千葉県、愛知県なども医療費は安いのに、後発品の使用率は全国平均より低い水準だ。


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 上図のように、入院用のベッド数の多い県は1人当たり医療費が高くなるという負の相関があるのに比べると、後発品使用率との間には明確な相関は見えてこない。

 長期に渡って薬を服用する生活習慣病患者などがジェネリックを使えば薬剤費は安くなるので、個人や健保組合レベルでの切り替えは無駄ではない。また、ジェネリックの使用がさらに広がれば、医療費削減に影響を与える可能性もあり、ここで結論付けるのは早計かもしれない。だが、最初に示した図の検証を見る限りでは、ジェネリックの使用率アップが国民医療費削減に大きなインパクトを与えるとは到底思えないのだ。


 ジェネリック促進で思うような医療費削減効果が得られなかった場合、その先に待っているのは調剤報酬の見直しだろう。かつて医療機関の収入を支えた薬価差益は、今はほぼ解消されている。反対に、医薬分業によって医療機関から調剤薬局に移った報酬が「調剤バブル」と言われるまでになっている。一部の調剤薬局チェーンのオーナーが、破格の報酬を得ていることも批判されている。今後、調剤報酬にメスが入った場合に、どう生き残りをかけるのか。お手並み拝見といきたいところだ。


筆者近著
「読むだけで200万円節約できる! 医療費と医療保険&介護保険のトクする裏ワザ30」
http://www.amazon.co.jp/dp/4478024529


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早川 幸子(はやかわ ゆきこ)

 1968年千葉県生まれ。明治大学文学部卒業。フリーライター。編集プロダクションを経て、99年に独立。これまでに女性週刊誌などに医療や節約の記事を、日本経済新聞に社会保障の記事を寄稿。現在、朝日新聞be土曜版で「お金のミカタ」、ダイヤモンド・オンラインで「知らないと損する!医療費の裏ワザと落とし穴」を連載中。2008年から、ファイナンシャルプランナーの内藤眞弓さんと「日本の医療を守る市民の会」を主宰している。