セミナー修了の現役医学生たちからのエール

 未来のブラック・ジャック育成を目指す「ブラック・ジャックセミナー」が開催100回目を迎えた。ブラック・ジャックセミナーはジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社が地域社会への貢献活動の一環として2005年7月に開始した子ども向けの手術体験セミナーで、将来の日本の医療を担う子どもたちに医師の仕事の素晴らしさ、大切さを伝えることが目的である。

 今回のセミナーでは、メーンの手術体験の前にブラック・ジャックを制作した手塚プロダクション代表取締役社長の松谷孝征氏やブラック・ジャックセミナーの生みの親である長崎市立市民病院院長の兼松隆之氏が受講者である中学生たちにエールを送ったほか、過去にブラック・ジャックセミナーを受講し、現在医師となるべく医学部で勉学に励んでいる医学生3人が登壇し、「私はこのセミナーがきっかけのひとつになり、医学部を目指すようになりました。今行っている大学の勉強はもちろんのこと、大学に入るための受験勉強も大変でしたが、そのときに出来ることに精一杯取り組んでいけば、きっと夢はかないます」と励ましの言葉を送り、子どもたちは熱心に耳を傾けていた。

医療機器を使い、子どもたちが外科医の仕事を体験

 現役医師の指示のもと、手術着を身にまとい、グローブをはめた子どもたちが立ち向かったのは手術縫合、超音波メス、内視鏡、自動縫合器の4種類の手術を体験するコーナーだ。いずれも臨床現場で実際に使われている機器を用いて模擬体験をする。

 手術縫合では患者の体に見立てたスポンジような器材を、針と糸を用いて縫い付ける。まず、指導医から道具の名前、持ち方を教わった後、糸の通し方、縫い方、玉止めの仕方と丁寧な説明がなされ、いよいよ実技を開始する。

「お裁縫と同じようなものですから大丈夫ですよ」

 子どもたちの指導をつとめる医師からは、不安そうな子どもたちを安心させるためにそう声がかけられたが、手術の縫合は手に直接針を持つのではなく、はさみのような形をした結紮器を使わなければならないので、縫合が思うようにいかない。はじめは、緊張していたせいか、遠慮がちだった子どもたちだったが、熱中するにつれて身を乗り出すよう医師の手元を見つめたり、時折質問を投げかける場面がみられた。一人一台のデモ器の前に座り、針を操る姿は真剣そのものだった。
 


 縫合体験の隣では、ゲーム形式で行われる超音波メスの体験ブースがあり、にぎやかな歓声が上がっていた。


 ゲームは、超音波メスで生の鶏肉10gを切り取るというもの。


「出血を出来るだけ少なくしたいときに、この超音波メスを使います。普通の金属のメスとちがってまるでペンのような形のこのメスで、本当に切れるのかなと思うかもしれませんが、どうですか、包丁よりもよく切れるでしょう」


 超音波メスは、肉を包丁のようにすぱっと切るのではなく、少しずつメスの先端を滑らせるようにして切り取る。自らメスをとり、切り落とした肉片を見て、首をかしげる子どもたち。


「もう少し足してもいいですか?」


 目安として置かれた10gの肉片と見比べながら、精確に10gを切り取ろうと慎重にメスを操っていた。



 隣接する部屋では、壁に沿い、ずらりと内視鏡が並んでいた。モニターを見ながら手元の内視鏡を操り、ビーズを左の皿から右の皿へ落とさないように移すという実習だ。


 子どもたちはモニターを真剣に見つめながら、息をするのも忘れたかのように両手で内視鏡で作業をしている。時折、ビーズ運びに失敗し、ビーズを容器に落としてしまうと、悔しそうな表情を浮かべながらも、諦めることなく作業を続ける姿がみられた。




 内視鏡を真剣に操る子どもたちの背後では、自動縫合器で胃と腸に見立てたスポンジを切除し吻合するという本格的な実技が行われていた。指導医から手術の概要が説明され、筒のような形をした自動吻合器を手渡される。スポンジで作られた胃と腸を、指導医のもと、手順をしっかり確認しながら緊張した手つきで操作する。指示通りに操作をすすめると、切り離したはずの胃と腸が自動的に接合している。しかも、接合部で食べ物や飲み物が詰まってしまったりしないように、きちんと通り道が確保されているのだ。


「え、なんで?」


 驚きを隠せない子どもたち。


 小さな器具を、指導医の指示通りに操作しただけで、切除、縫合を一気に行ってしまう自動縫合器の威力に、子どもたちは不思議そうに綺麗に縫合されたスポンジを両手で広げてみたり、縫合器を観察したりしていた。





 1コーナーを体験出来るのはわずか20分程度だが、手術をひとつ体験していくたびに子どもたちの目は輝きを増し、活き活きと意欲的に次の実技に取り組む様子が見られた。


 ジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社が主催する本セミナーは、今回で100回を迎えた。同社によると、2013年10月末時点で、ブラック・ジャックセミナーを修了し、医学部へと進学した医学生は約30名にのぼるという。


 もしかしたら、この100回目のセミナーを受講した輝く目を持つ中学生たちの中からも、将来のブラック・ジャックが誕生するかもしれない。(育)