政府の社会保障制度改革国民会議報告書に沿って、市町村の運営する国民健康保険制度の運営を都道府県単位にする検討が政府内で進んでいる。財政運営の単位を大きくすることで、慢性的な赤字に苦しむ国保の財政健全化が目的だ。


 確かに国保財政は1980年代以降の懸案であり、財政健全化や国・地方の役割分担論が話題になると必ず争点になった経緯がある。このため、今回の制度改革は長年の懸案に一定のメドを付けたことになる。政府内で全国知事会が容認姿勢に転じたことを指して、「千載一遇のチャンス」との声が漏れるのも、こうした事情を踏まえた発言だ。


 しかし、現時点の案は「財布の付け替え」にしか見えない。政府の案によると、後期高齢者医療制度の支援金に関する財政調整ルールの変更を通じて、浮くことになる協会けんぽの国庫補助金を国保に回すことを盛り込んでいる程度で、「保険者が果たすべき機能がどこにあるのか?」「都道府県と市町村の適切な役割分担は?」といった骨太な視点や議論が欠けている。国保の歴史や課題を探りつつ、その在り方を問い直したい。


国保を巡る国・地方の根深い対立


  
1961年、国民全員が何らかの医療保険に加入する「国民皆保険」が完成したが、1973年1月からの老人医療費無料化で医療費が増加。財政力の弱い国保財政の健全化が焦点となり、1983年2月に発足した「老人保健制度」は国保財政の救済を目的としていた。


 一方、国家財政の健全化を図る観点で、第2次臨時行政調査会(第二臨調)は1981年7月の第1次答申で、国保に関する都道府県負担の導入を検討課題として明記したほか、第二臨調の後継組織である臨時行政改革推進審議会は1986年6月の答申で、都道府県の役割を早急に検討するよう提言した。当時、国保の赤字体質が国家財政を悪化させているとして、「国鉄」「コメ(食糧管理制度)」と並んで「3K」と称された。


 全国知事会は反発したが、1988年度から低所得者の保険料軽減措置を穴埋めする「保険基盤安定制度」などが導入され、財政面で都道府県の関与が強まった。


 その後、国・地方の税財政を見直す「三位一体改革」でも国保の取り扱いが争点となった。負担増を嫌がる全国知事会の反対を押し切る形で、国保に関する国庫負担が引き下げられ、給付費の定率補助は2006年度までに40%から34%に、市町村ごとの医療費や所得差を調整する「財政調整交付金」の国庫負担が10%から9%にそれぞれ減少。その合計分の7%を穴埋めする新たな都道府県の負担制度として、「都道府県財政調整交付金」が導入された。さらに、保険基盤安定制度に関しても、国1/2、都道府県1/4、市町村1/4という負担割合が都道府県3/4、市町村1/4に変更された。


 さらに、民主党政権下では子ども手当(現児童手当)の地方負担を巡る攻防が国保に波及。子ども手当の財源確保策として、個人住民税の年少扶養控除を廃止したため、その増収分を充てる名目で2012年度以降は国保給付費の定率国庫負担が34%から32%に、都道府県調整交付金を7%から9%となっている。



 国保を巡る直接の攻防ではないが、2008年度から導入された75歳以上の後期高齢者医療制度に関しても、負担増を避けたい全国知事会と全国市長会、全国町村会の利害が対立し、全市町村が加入する広域連合を設置する形で決着した。

後編に続く



関連資料

◇ 国民会議報告書
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/kokuminkaigi/pdf/houkokusyo.pdf


◇ 国保財政の現状
http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r98520000031pmw-att/2r985200000320c5.pdf


◇ 社会保障制度改革プログラム法の条文(持続可能な社会保障制度の確立を図るための改革の推進に関する法律案)
http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/soumu/houritu/185.html

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丘山 源(おかやま げん)

早稲田大学卒業後、大手メディアで政策プロセスや地方行政の実態を約15年間取材。現在は研究職として、政策立案と制度運用の現場をウオッチしている