ここ数カ月老親の介護で右往左往している。92歳の父と86歳の母。今年まで要介護認定すら受けたことがなかった。
ところが、昨年来の身体状況の変化で二人とも車椅子や四輪の歩行器(車)を使わざるを得ず、築60年の自宅では生活できなくなった。今は老健にいるが、妹と終の棲み家探しに奔走している。
そんな折り、金融庁の金融審議会市場ワーキング・グループ報告書『高齢社会における資産形成・管理』が公表された。
◆謝るより、趣旨をはっきり伝えて
6月3日公表翌日の、主なメディアの第一報を見てみよう。
〈老後資金2000万円必要 金融庁報告書 3段階の運用提言〉(産経新聞)
〈金融庁「人生100年」の資産形成報告 現役時代の投資推奨〉(毎日新聞)
〈「資産寿命」指針を公表 年金水準「低下」の表現、案から削る〉(朝日新聞)
〈人生100年時代、2000万円が不足 金融庁が報告書〉(日経新聞)
〈“人生100年時代” 金融庁の審議会が資産形成の指針案〉(NHK)
その後、6日の野党側会合で「内容に違和感あり。政府は責任を放棄しているのか」との指摘があり、7日に麻生金融担当大臣や菅官房長官が「誤解や不安を招く不適切な表現」を謝罪、8日に立憲民主党・枝野代表が「上から目線」とたたみかける展開となった。
で、当の報告書を読んでみると、実は介護家族にとって「ごもっとも」と感じる点が多いのだ。
内容は三部構成で、まず「1.現状整理」で高齢社会を取り巻く環境変化をまとめてある〈表〉。
次いで、「2.基本的な視点及び考え方」では、高齢社会における金融サービス提供について、個々人とサービス提供者の双方が認識する必要がある事項を挙げている。具体的には、①長寿化に伴い、資産寿命を延ばすことが必要、②ライフスタイル等の多様化により個々人のニーズは様々、③公的年金の受給に加えた生活水準を上げるための行動(年金受給額を含め自分自身の状況を「見える化」し、保有資産を活用した資産形成・運用などの「自助」を充実)が必要、④認知・判断能力の低下が誰にでも起こりうるとの認識および事前の備えや適切な対応の重要が増す、の4点である。
これらに対して「3.考えられる対応」が①現役期、②リタイア期、③高齢期の3段階で示されている〈図〉。
ここで注目したいキーワードは、「資産寿命」。「生命寿命」や「健康寿命」と関連して、老後の生活を営んでいくのにあたって、これまで形成してきた資産が尽きるまでの期間を指す。いわば第三の寿命である「資産寿命」が尽きた後は年金等のフローの収入のみで生活を営んでいくことになる。
こちらは「自助」なしでお国に何とかしてもらおうなどとは持っていないし、わが家の場合、両親同時に施設入所の必要が生じることを想定していなかった甘さを反省し、「資産寿命」を延ばす重要性を痛感する今日この頃である。
政策責任者は、木を見て森を見ないような批判をその場限りの謝罪でかわすのではなく、本来の趣旨を堂々と述べてほしいと思う。
◆特養待ちも「見える化」を
私たち姉妹も、特養や有料老人ホーム十数施設に足を運んでうえで、「(入居費用+介護保険分+その他雑費)―年金収入」といういわゆる不足分を、「親自身の形成資産―予備費用」で補填すると何年もつか、まさに「資産寿命」を計算しては、頭を抱えている。
このシミュレーションの変数には複数の不確定要素がある。まずは親(利用者)自身の「生命寿命」と「健康寿命」(この先何年生きられるか、どの程度健康を保てるか/医療を必要とするか)。一方、希望する施設に既に入居しているかたの「生命寿命」も、施設側でさえ明確には予測しにくい数値だ。最近は施設に入って、食事・運動・服薬などの管理がなされた結果、元気になってより長生きする高齢者も増えていると聞く。
さらに困惑するのが、1施設100~200人待機もザラという特養待ち。両親が住む市内には10施設あり、申込書は共通。ほとんどの家族は、複数施設に申請書を提出し、民間の有料老人ホームに入ったり、亡くなったりした場合も、取り下げの連絡を入れる奇特な人は少ないようだ。要介護度や介護家族の状況などをポイント換算して優先度を決め、お声がかかるとようやく待機の列に並べるという仕組みだが、地域への貢献度など明確なポイント外の考慮要因もある。申請書は紙ベースであり、一元化されていない。
だから、いつになったら中に入れるのか、自分の順番もわからずに列に並んでいる気分である。“ファストパス”をもらえるのは、身寄りもないような困難な状況の人かと思いきや、どこの施設も「入所の条件は家族が最大限の協力をすること」と説明される。あわよくば親を入所させ「資産寿命」を少しでも延ばしたいが、本当に困っているケースはどうなるのか心配になってしまう。
この困惑や不安を減らすために、社会シミュレーションの専門家に一肌脱いでもらえないかと、素人ながら思う。市町村単位で申請者とポイントを一元化し、過去データから入所後の平均的な「生命寿命」を出すなどして、自分が列のどこにいるかわかればそこそこ方針が立てやすく、順番待ちの心理的負担も少しは軽くなるのだが(玲)。