「ジェネリック医薬品の価格差を患者さんに説明するのは難しく、なかなか理解してもらえない」


 ふくろうメディカル代表で薬剤師の水八寿裕氏は、こんな悩みを打ち明ける。たしかに、後発品の薬価算定ルールは複雑だ。


 現在、後発医薬品の薬価は先発品の7〜2割と幅がある。後発品がはじめて薬価収載されるときは先発品の7割(内用薬で10品目を超える場合は6割)。すでに収載されている後発品がある場合は最低価格の後発品と同価格だが、収載された後発品が20品目(内用薬は10品目)を超えると、その価格の0.9掛けになる。このルールが繰り返され、収載時期が遅いほど薬価は低くなり、最後は先発品の2割で打ち止めとなる。


 だが、こうしたルールを患者の多くは理解していない。厚生労働省の「平成24年度 後発医薬品の使用状況調査(報告書)」では、「ジェネリック医薬品は説明を聞くかぎり、薬の内容や効果が変わらないはずなのに、なぜ価格にばらつきがあるのかが理解できない」といった患者の声が紹介されている。


 後発品の価格差への疑問は、当然のごとく薬局、医師、中医協委員からも過去何度もでており、大半が「価格差が大きすぎる」「品目、価格帯に幅がある」など、現行制度への否定的な意見だ。


 市場の実勢価格をみても、新規後発品の販売価格は薬価の20%程度低い。また、患者が使いたいと考える後発品の価格は、先発品の50%程度と予測されている。そのため、来年度の薬価改定では、初収載の後発品薬価は原則6割(内服薬で10品目を超える場合は5割)まで引き下げられる見込みだ。さらに、すでに収載されている後発品の価格は、先発品の50%以上、50%未満、30%未満の3つにグループ分けされそうだ。そのため、今回の見直しは後発品メーカーにとって大きな痛手になると言われている。


 だが、2013年3月現在の全薬剤に占める後発品割合(数量ベース)は29.4%。普及が進まない背景には、こうした複雑な価格設定にも問題があるのではないだろうか。現状の薬価算定ルールは、後発品市場を拡大のためにメーカーに配慮している部分も大きい。その薬価の複雑さが、患者や医療者にとっては分かりにくさの原因となり、反対に足を遠のかせたとみることもできる。


 現場の薬剤師や医師からは「流通が安定していないものもあり、後発品の選択には苦労する」といった声もあり、それが後発品の処方が広がらない原因にもなっている。


 収載時の価格の決定要因が、品質や供給体制への努力ではなく、早く収載された後発品ほど高いというのは、患者からみれば納得できる仕組みではないだろう。


 それよりも、安定供給体制が整えられた後発品は高い価格、その体制がないものは低い価格など、努力の見られるメーカーへのインセンティブをつけるべきではないだろうか。


 前出の水氏は「後発品の価格は、2段階くらいで十分ではないか。将来的には先発品の長期収載品を、もっと後発品の最低価格に合わせてもよい」という。


 後発医薬品のさらなる定着のためには、そろそろ患者にも分かりやすい価格算定ルールに脱皮する必要がある。



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早川 幸子(はやかわ ゆきこ)

 1968年千葉県生まれ。明治大学文学部卒業。フリーライター。編集プロダクションを経て、99年に独立。これまでに女性週刊誌などに医療や節約の記事を、日本経済新聞に社会保障の記事を寄稿。現在、朝日新聞be土曜版で「お金のミカタ」、ダイヤモンド・オンラインで「知らないと損する!医療費の裏ワザと落とし穴」を連載中。2008年から、ファイナンシャルプランナーの内藤眞弓さんと「日本の医療を守る市民の会」を主宰している。