「世襲は私で終わり」とかねて公に世襲を否定していたイオンの岡田元也社長。しかし、岡田社長の長男が今年、イオングループ入りしていたことがわかった。今後、岡田家の嫡男として経営者への道を歩むか否かが注目される。


 流通業界ではすでにセブン&アイ・ホールディングスの鈴木敏文会長の次男、康弘氏が今後の重要事業のトップに就いており、将来の総帥候補は既定路線。2大流通業がそろって禅譲に動くか、焦点となりそうだ。


 一部関係者によると、岡田社長の長男、N氏は大学卒業後に長らく海外の企業に就職していたとされるが、今年になってイオングループで小型スーパーを展開する「まいばすけっと」のある店舗の店長に就いたという。ミニストップを振り出しにトップに登りつめた岡田元也社長と同じように、まず小型店で“修行”を積む格好だ。


 岡田社長はこれまで「世襲」についてはどちらかというと否定的だったことから、周囲も子息について「グループには入れないだろう」とみていたフシがあるが、なぜ一転グループ入りさせたのか。


 イオングループ関係者は「岡田卓也名誉会長のご意向ではないか」とみる。名誉会長はすでにイオンの経営には口を挟まないとはいえ、岡田社長は常に意見は尊重しているとされる。「名誉会長になぜNをグループに入れないのかと問われれば、岡田社長としても拒めないのでは」(同)と推測する。


 長男はまだ30歳代と若いことから、経営の中枢に入るのはまだ先。これから10年後、20年後にトップ人事が云々されることになるのだろうが、イオンはまずそれまでに山積する課題を解決しなければならない。


 中核となる総合スーパー(GMS)の立て直しはもとより流通業界が少子高齢化、ネット社会に直面し、これまでの店舗運営のあり方や現在のイオンのショッピングセンター(SC)を軸としたビジネスモデルでいいのかどうかという経営の一大判断が問われる局面を迎えているからだ。


 すでにイオンは、郊外型SC依存から小型店を多店舗化する都市シフトや、これからSCの時代を迎えるアジアシフトなどを掲げ、種は蒔いている。それを成し遂げ、流通大手として新たな収益基盤を確立させないことには世襲も何も始まらない。


 世襲といえば一方の流通大手、セブン&アイの鈴木会長の次男、康弘氏への禅譲がにわか現実味を帯びて語られるようになってきた。康弘氏は同社が2020年までに売上高1兆円の目標を掲げるネットと店舗を融合させる重要事業、「オムニセブン」の責任者に就いている。


 セブン&アイには、祖業であるイトーヨーカ堂を創業した伊藤雅俊氏の子息もホールディングスの取締役に就任しているが、60歳近くになっても動きがないことから、将来の総帥の座は康弘氏で決まりが業界の定説になっている。


 2016年には現HD社長の村田紀敏氏の去就も取り沙汰されており、村田氏の後、ワンポイントリリーフを置いたのち重要事業のオムニチャネルを成功させ、康弘氏にバトンを渡すのではないかとみられている。


 産業界には世襲でもうまく回っている企業は少なくない。代表格がトヨタ自動車だ。ワンポイントリリーフを挟みながらも代々豊田家の血筋をトップに据えており、成長を続けている。


 ライバルメーカーのある幹部はかつて「トヨタさんは番頭をキチンと育てている」とみる。豊田家の御曹司が多少トップとしての資質に欠けても、それを支える体制ができているというのだ。経団連会長を務めた奥田硯元トヨタ自動車社長はそんな体制をキチンとつくった一人だという。


 とかく世襲というと色眼鏡で見られがちだが、逆に偉業を成し遂げた創業者の血族が経営を引き継げば、結束力を固めやすいという見方もある。やはり世襲にあたっては経営上、御曹司が暴走しないようにブレーキを踏めるような体制を現社長が築けるかどうかだろう。


 図らずも流通2強のトップの子息がグループに入りし、今後の経営にあたる可能性が強まっている。現イオンやセブン&アイのトップが築き上げた、「SC戦略」や「コンビニ」という大いなる遺産を継承し、それを進化させていけるかどうか。子息の実力は別にして、それは現体制に課せられた命題ともいえそうだ。(原)