新春第1号の各誌を見渡して、“今週の1本”と呼べる記事はやはり、週刊文春のスクープ『ベッキー禁断愛 お相手は紅白初出場歌手』になるのだろう。スキャンダルと無縁だったハーフタレント・ベッキーと、紅白出場バンド「ゲスの極み乙女。」のボーカルで昨夏に結婚したばかりの川谷絵音との不倫関係を暴いた記事である。
個人的な嗜好から言えば、正直、この手の芸能人ネタに心が動くことはない。男性が新婚ほやほやの妻帯者で不道徳な話ではあるのだが、男女の間にはいろいろあるだろう、と言ってしまえば、それだけのこと。ああそうか、で終わりである。
ただ、週刊誌を語る本コラムの趣旨からして、それではやはりまずいので、気を取り直し、4ページの記事に隈なく目を通した。で、目に留まったのが、文中に引用されているLINEの文章と、室内で撮られた2人のプライベートツーショット写真。編集部は一体どうやって、これらを手に入れたのか、そんな素朴な疑問が湧く。
記事では《川谷の将来を憂うある音楽関係者》が情報源とされているが、その人物はどうしてデータを持ち得たのか。いくら親しい友人でも、川谷から不倫の証拠を手渡される、などということは、なかなか想像しにくい。しかも、動機はただ、《将来を憂う》ためだという。本当だろうか。
仮に金銭を目的としていたとしても、雑誌側からの“報酬”はせいぜい数万円の“薄謝”である。欧米では、パパラッチのスクープ写真が高額で買い取られる例もあるようだが、筆者の知る限り、日本のメディアはその手のカネに渋い。
普通、最もありそうに思えるのは、夫の不義に逆上したであろう川谷の新妻が、文春にデータを渡すパターンだが、記事を読むと、妻は文春の直撃を受け、戸惑って逃げ去ったことになっている……。さらに別パターン、情報提供者が妻から相談を受け、データを手にしたケースだったとしても、文春に渡すとなれば、妻の同意があるほうが自然だ。
いずれにせよ、本来ならベッキーと川谷だけが持つデータが誌面に出てしまった以上、ふたりにその“流出ルート”はある程度、わかっているはずだ。しかも、そんなこんなを含め、赤の他人には関係のない話でしかない。週刊文春はともあれ、お見事な“初仕事”であった。
あとは、自分が沖縄関連の仕事(週刊朝日で今週から連載企画の第2部を始めた)をしている関係で、このテーマの記事に目が留まる。で、インパクトがあったのが週刊現代の佐藤優氏のコラムである。
沖縄出身の母親を持つ佐藤氏は、このテーマでは明確に沖縄の立場に身を置くが、今週は島尻安伊子・沖縄担当相(出身は仙台)について《長く沖縄に住んでいても沖縄人の心と論理を理解しようとしない》《植民地担当相》と容赦なく切り捨て、《論壇人として差し違える覚悟で、こういう輩と対峙していかなくては》と嫌悪を綴っている。
辺野古問題について、本土にはさまざまな意見があるだろう。だが昨年の約3分の1を沖縄で過ごした立場から言えば、問題はもはや辺野古の話でなく、「日本人」になって137年目の沖縄人全体の尊厳をめぐる話になっている。「大げさだ」と否定する人は、本当の意味で沖縄の歴史を知らないか、何らかの利害関係者のいずれかだ。沖縄現代史をきちんと理解する本土人は、間違いなく1割に満たない(50歳以下の沖縄県民も、基礎知識は意外とない)。この1年、100冊近い資料を読み、100人ほどの取材をして、私自身、自分の理解がとことん浅薄だったことを痛感した。
沖縄戦は悲劇の一部でしかない。137年の県史、とくに戦後の27年と本土復帰時の“裏切り”を知れば、沖縄でなぜ、未だ本格的な独立運動が起きていないのか、むしろそのことが不思議に思えてくる。辺野古という一事で、現地では、その記憶が蘇り始めている。これまでとは異次元の、民族的な「沖縄問題」が、まさにこの時代に生まれつつあるのだが、政府はそのことにあまりに無自覚でいる。
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三山喬(みやまたかし) 1961年、神奈川県生まれ。東京大学経済学部卒業。1998年まで13年間、朝日新聞記者として東京本社学芸部、社会部などに在籍。ドミニカ移民の訴訟問題を取材したことを機に移民や日系人に興味を持ち、退社してペルーのリマに移住。南米在住のフリージャーナリストとして活躍した。2007年に帰国後はテーマを広げて取材・執筆活動を続け、各紙誌に記事を発表している。著書は『ホームレス歌人のいた冬』『さまよえる町・フクシマ爆心地の「こころの声」を追って」(ともに東海教育研究所刊)など。