「明けましておめでとうございます、本年もよろしくお願い……」と言っているうちに本番を迎えた受験シーズン。優秀な学生の多くは、こぞって医学部をめざすとは昨今よく聞く話だ。とくに西側の医学部熱はすごいみたい。



 そんな医学部受験の実態に迫りつつ、受験ノウハウのエッセンスをコンパクトにまとめたのが、『わが子を医学部に入れる』である。


 本書によれば、このところの医学部受験の〈裾野を広げ、難度を押し上げているのは一般家庭の子どもたち〉なんだとか。著者は医学部専門予備校で講師を務めるが、受験生の裾野が広がったことに伴って、昔はなかった〈学費などお金の話〉が出てくるようになったという。また〈昔から優秀な女性は、進路としてまず医学部を考える傾向がありましたが、現在その動きが顕著に〉なっている。


 資格系の職種としては、弁護士や公認会計士といった職業も王道だったが、増員などで需給が緩んでしまい、かつてほどの人気はない。今や資格があれば、それなりの地位が約束される“食える資格”は医師くらいになった。


 その意味では、“東大神話”も崩れつつあり、〈「東大より医学部、理系なら医学部」という流れが、トップ校を中心に確実に広がっている〉。


 お金の面で、私立医学部の敷居が低くなったことも大きいようだ。近年、相次いで私立医学部が軒並み学費を値下げしている。〈大学側には学費を値下げすることで、優秀な学生を確保しようとする狙いがある〉という。


 ただ、私立でいちばん安い順天堂大でも、6年間に学費が2000万円を超える。一般家庭にとって決して安いとは言えない金額だ。しかし、13年4月から、子や孫への教育資金の贈与について1500万円まで非課税となったことが一般家庭の医学部受験を後押ししている。〈両親の経済力が足らなくても、祖父母が同制度を利用して、孫の学費をまかなえるよう援助している〉というわけだ。


■人気沸騰で偏差値も高騰


 医学部人気は偏差値にも表れている。トップクラスの偏差値は昔から高いが、かつて「○○大出身の医師には見てもらいたくない」なんて馬鹿にされていた私立の医大も、軒並み偏差値60を超えてきている。〈難関国立大出身の親は、私立医学部を低く見がちですが、今はそういう時代ではありません〉〈親が現状を認識しないままだと、親子間のギャップから、子どもと衝突することも多くなります〉という(もっとも、著者も指摘するように昔も医学部には、極端に低い偏差値の学校はない。念のため)。


 ちなみに、医学部の受験生は10校受けるケースも珍しくないが、〈医学部の受験料は平均6万円と高額〉だ。〈私立大にとって、受験料は大きな収入源〉である。このため偏差値を上げ、受験者数を増やすことは経営に直結するテーマになっているという。


 大学入試まで、あとわずか。


 受験生の皆さん「頑張ってぜひ合格してください!」と言いたいところだが、ある有名私立医大の元教授は、年々難しくなる一方の医学部入試を評して、こんなことを言っていた。


「今、医者になろうとする人は本当に勉強がよくできる。ただ、医者になるのに、これほど高い学力が必要なのか? 子どもの頃から、人や自然に触れあっていろんな経験を積んで、コミュニケーション能力を身につけるだとか、医者には勉強以外の部分でも大事なことも多い。それに優秀な人が皆医者になってしまうと、産業界に優秀な理系人材が行かなくなってしまう。そうなると日本の将来が心配だ」


 確かにそうだと納得。


 でも、自分がかかる医者は優秀なほうがいいな、と思ってみたり……。しかし、いくら賢くても、カチンと来ることを言われたら嫌だな。患者とはわがままで面倒なものだ(モンスターとは言わないにしても、私は厄介な患者だと思う)。そんな患者を相手にしなきゃならないと考えると、いくら高収入・地位は安定しているとはいえ、医者になろうという若者には本当に頭が下がります。最近は患者の権利もずいぶん強くなってるしね。あと、本書でも触れているけど、36時間連続勤務とか勤務医はとにかく激務だ。


 本書は、医学部をめざす人やその家族にとっての受験ガイドとして有用だが、現代の若手医師の実像を知るうえでも非常に役に立つ1冊だ。患者として、またはビジネスの相手として若手医師と接する人なら、読んでおいて損はない。(鎌)


<書籍データ>

『わが子を医学部に入れる』

小林公夫著(祥伝社新書800円+税)