久しぶりに重量感のある政治家スキャンダルが週刊誌に載った。パンティ泥棒だとか同性愛買春だとかカレンダーを配ったとか、そのレベルのゴシップではない。法律上はもしかすると、政治資金規正法でしか刑事責任を問えないのかもしれないが、素人感覚の物差しからすれば、極めて明白な“ワイロの授受”としか思えない。


 すでに国会でも追及が始まった週刊文春の『政界激震スクープ「甘利明大臣事務所に賄賂1200万円を渡した」実名告発』である。


 この報道では何よりも、現金入り封筒を手に満面の笑みをこぼす悪代官、ならぬ公設第一秘書の隠し撮り写真が、どでかくグラビアに載ってしまっているところが決定的である。カネを手渡した当事者は、完全に腹をくくっているのだろう。実名をさらけ出し、事細かく証拠付きで詳細を語っている。ここまできっちりと細部を詰め切った金銭スキャンダルの記事は、そうそう書けるものではない。


 昨年秋、春画掲載問題で3ヵ月間の謹慎処分となった編集長が年明けに戦線復帰して以来、ベッキーの不倫スクープに続いてこのスクープと、文春が勢いを取り戻している。政治的な路線では“政権ベッタリ”との批判がある一方、スキャンダルについては「それはそれ、これはこれ」というところが、文春なりの矜持なのだろう。


 一方、先週の新潮記事が震源地と思われるSMAP騒動だが、今週の新潮は渦中のメリー喜多川副社長、文春は別のジャニーズ幹部のインタビューを取り、18日にメンバー5人の異様な謝罪放送という形になった問題の経緯をたどっている。


 この問題で興味深いのは、女性マネージャーの退社・独立に伴うメンバー4人の“クーデターの失敗”という筋書きで、スポーツ紙やテレビで洪水のように流された情報が、ネット上では「ジャニーズ事務所の情報統制に諾々と従うメディアの一方的報道」として、ほとんど信じられていないことだ。


 それはどこか、一昨年末から昨年にかけ、たかじんとその妻をめぐる百田尚樹氏の著書『殉愛』の問題で、ネット上に吹き荒れた「メディア・タブー(作家タブー)」への非難の大合唱を思わせる現象だ。


 ジャニーズをめぐる過去の報道姿勢から、事務所圧力に屈しないイメージを持つ新潮と文春だけに、今週の記事は注目されたのだが、意外にも両誌に載ったのは、事務所が主張する「クーデター説」をなぞった記事だった。新潮に至っては、ニュートラルだった第1報から明らかに軌道修正し、中居正広ら4人に批判的なトーンに変わっている。つまりはテレビやスポーツ紙報道の流れに乗り、ネット世論とは相容れない記事を載せたのだ。


 ポイントは、いったんは事務所も認めたSMAPの独立が、木村拓哉の離反で覆され、結果的に4人が悪者にされたのか、それとも、木村は終始一貫して独立に反対し、4人が無謀な“クーデター”にしくじっただけの話だったのか、という点だ。


 女性マネージャーやメンバー4人が何も語らない以上、真相は藪の中なのだが、あのテレビ謝罪の不自然さにここまでネット世論が反応する以上、メディアはせめて、「違う見方の存在」に言及できないものなのか。まるで申し合わせたように、それを無視してしまうところに、どうしても「事務所タブー」を感じざるを得ないのだ。


 政治的テーマや一部の犯罪に関しては、ネット世論とかなり相性の悪い筆者だが、芸能ネタで“大本営発表”を突き崩そうとするパワーには、素直に感服する。少なくともこのジャンルでは、特定の力によるメディア統制は難しくなり始めている。  
 
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三山喬(みやまたかし) 1961年、神奈川県生まれ。東京大学経済学部卒業。1998年まで13年間、朝日新聞記者として東京本社学芸部、社会部などに在籍。ドミニカ移民の訴訟問題を取材したことを機に移民や日系人に興味を持ち、退社してペルーのリマに移住。南米在住のフリージャーナリストとして活躍した。2007年に帰国後はテーマを広げて取材・執筆活動を続け、各紙誌に記事を発表している。著書は『ホームレス歌人のいた冬』『さまよえる町・フクシマ爆心地の「こころの声」を追って」(ともに東海教育研究所刊)など。