STAP細胞騒動の小保方晴子さんが沈黙を破って著した『あの日』をめぐる記事が今週は各誌に載っている。週刊現代は《小保方晴子 ここまで書いて大丈夫か 「ハシゴを外した人たちへ」「ウソを書いた人たちへ」》というタイトルで、「なぜ彼女だけが悪者にされたのか──ついに反論を始める」と、彼女の言い分をなぞる形で特集を組んでいる。
もっともこの本は、週刊現代の発行元・講談社の刊行物なので、当然のことながら現代の記事は本の宣伝も兼ねている。ちなみに、今週の週刊ポストにある《独占インタビュー 石原慎太郎 宿敵だからわかる 俺だけに聞こえる天才・角栄の「霊言」》という記事もまた、石原氏の新著『天才』の宣伝のようなスタイルだが、こちらはポストの発行元・小学館でなく、幻冬舎の新刊。石原氏のインタビューにある程度、ニュース価値がある、と踏んだうえで、業界内の“ヨコのつながり”で実現した、一種の“側面支援”だろう。
小保方さんの『あの日』に関しては、他誌は軒並み手厳しく、その内容を叩いている。ポストは《小保方晴子 「告白本」の矛盾と疑問と自己弁護》というタイトルで、「読後感は何ともすっきりしない」と評している。小保方さんの主張には、具体的な記述や「証拠」が欠けている、という。
現代の記事によれば、この本には、騒動のさなかの取材攻勢への反発(取材依頼のメールは「脅し文句のよう」「殺意すら感じさせる」ものだったという)であったり、共同研究者だった若山輝彦・山梨大教授こそが実験の重要部分を担った人物で、その責任が自分になすりつけられた、と主張したりする内容が綴られているという。
これに対し、週刊新潮は《「あの日」から初めて口を開いた! 黒い割烹着「小保方手記」に「笹井副センター長」未亡人 単独インタビュー》と題し、騒動の心労から自殺に追い込まれた理化学研究所CDBの副センター長だった笹井芳樹氏の夫人のインタビューをまとめている。
それによれば、夫人はまだ、本を読んでいないが、アマゾンのレビューを見て「感情論」という印象を受けたらしい。インタビューの内容は、主に亡き夫の回想で、小保方さんについて笹井氏は、そのデータ管理のずさんさがわかると、「根本的に研究者としての適性がない」と思うようになっていたという。
全6ページという最も長い特集を組んだのは週刊文春で、《小保方晴子さんを許さない3人の女》として、この笹井未亡人と、著書で名指しされ批判された若山教授の夫人、そしてもうひとり、小保方さんの本で批判されている毎日新聞の女性記者・須田桃子さんについて取り上げている。ちなみに、須田記者は文藝春秋社から『捏造の科学者 STAP細胞事件』という本を出し、大宅賞を受賞している。
興味深いのは、文春のこの特集に寄稿した元外務省職員の作家・佐藤優氏の見解で、小保方さんの著書には「不自然なまでに“枝切り”されたエピソード」がある、と指摘している。たとえば大学研究者との酒席で酔い潰れ、その縁でハーバード留学が決まったことなどが、ちらほらと作中で触れられていて、佐藤氏はこれを関係者への「脅迫」、つまり「『何かあったらこの程度では済まないわよ』というメッセージにも見える」と言うのである。
インテリジェンスの世界に生きてきた佐藤氏ならではの“深読み”だが、実際にはどうなのか。サイエンスに疎く、STAP騒動そのものに立ち入った論評をする能力のない私だが、小保方さんという不思議な人格の持ち主と、その周辺にいた科学者たちとの関係には、別の意味のドラマ性を感じる。これはむしろ、優れた作家の筆による小説作品として読んでみたい物語のように思えるのである。
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三山喬(みやまたかし) 1961年、神奈川県生まれ。東京大学経済学部卒業。1998年まで13年間、朝日新聞記者として東京本社学芸部、社会部などに在籍。ドミニカ移民の訴訟問題を取材したことを機に移民や日系人に興味を持ち、退社してペルーのリマに移住。南米在住のフリージャーナリストとして活躍した。2007年に帰国後はテーマを広げて取材・執筆活動を続け、各紙誌に記事を発表している。著書は『ホームレス歌人のいた冬』『さまよえる町・フクシマ爆心地の「こころの声」を追って」(ともに東海教育研究所刊)など。