これまでに何度も書いてきたことではあるが、新聞の社説ほど、社会の現状を端的に解説し、日本がこの先どう歩んでいけばよいかという方向性を示してくれるものはない。新聞社によって右から左までその方向性は異なる。それゆえに社説を読み比べ、読者が自分自身の考えを持ち、日本という国の明るい未来を築いていくことが大切なのである。


 日々の社説のなかでも目を通しておきたいのが、元日の新聞の社説だ。ここには日本の社会や世界が今後どうあるべきか、それが如実にまとまって示されている。


 そんな思いで今年1月1日の各紙の社説をのぞいてみた。おもしろかったのは、右と左の代表格として君臨し、相反する主張を展開している読売新聞と朝日新聞の社説だ。ともに社会の「分断」に危機感を抱き、「連帯」の重要性を説いている。イスラム国(IS)問題などが世界の大きな脅威となっているからだと思うが、結論的に読売と朝日の示す方向は違う。


 こんなことを考えていたら、1月6日、北朝鮮が事前通告も行わず、初の「水爆実験」に踏み切ったことを明らかにした。「水爆ではなくブースト型(強化型)原爆ではないか」とか「実験自体の成功も疑わしい」という見方も出た。


 しかしながら北朝鮮はこれまでに3回も核実験を行っている。その成果で核兵器の小型化や高性能化が着実に進み、核兵器を弾道ミサイルに搭載する技術力が上がってきている。イスラム国ばかりでなく、脅威は多い。


■「分断」につけ込む政治家ら


 まずは朝日の1月1日付の社説。「地球が、傷らだらけで新年を迎えた」という奇抜な表現で書き出し、「民族や宗教、経済、世代……。あらゆるところに亀裂が走っている。国境を超越した空間を意味するはずのグローバル世界は今、皮肉なことにたくさんの分断線におおわれてる」と続き、「それを修復するために、和解を進め、不公平をなくし、安心できる社会を実現する--。それこそが指導者の使命であろう。だが、むしろ社会の分断につけこむ政治家や宗教家、言論人も登場し、しばしば喝采を浴びている」と指摘する。


 世界の分断を懸念するところまでは一般的だが、その後で「社会の分断につけこむ」などと巧みに右側の政治家らを批判する。朝日らしい論理展開である。少しばかり嫌らしくも感じられる。


 問題のイスラム国(IS)に付いても、狂信的な教義を掲げて人々の分断を謀る過激派組織として「支配地域で従わない人々を隷属化し殺害するだけではない。ほかの宗教や文化を増悪の対象にしてイスラム教徒との間に深い溝を作ろうとしている」と批判する。当然の批判であり、ここまでは問題はない。


 問題はこの後だ。「(イスラム国から)その刃を向けられた側は、どう応えようとしているのか」とまた巧みに舵を切る。ここが実にうまく、朝日らしいのである。


「欧州では、中東からの難民やイスラム系移民層への警戒感が急速に強まった。フランスなどで、排他的な右翼政党の支持が高い。米国では共和党の大統領候補選びで『イスラム教徒を入国禁止に』などと放言し続けるトランプ氏の人気が衰えない」と朝日お得意の論を展開した後、「分断に分断で対抗する。敵対し合っているはずの勢力が、世界を分断するという点では奇妙に共鳴し合っている」とまで指摘する。なるほど、ここまで書かれると、思わず考えてしまうから実に怖い。


 イスラム国問題のほかでは、世界や日本の経済的不平等の問題、日本の消極的な難民の受け入れ、雇用の非正規率の上昇など具体的な事例を挙げ、同様な主張を繰り返し、最後に「私たちの社会が抱える分断という病理を直視し、そこにつけ込まない政治や言論を強くしていかねばならない」と強調する。分断の実態を分析するところまでは良いのだが、「そこにつけ込む」という表現は行き過ぎだ。


■国際秩序の崩壊に強い危機感


 さて対抗する読売の社説(1月1日付)はどうか。


「国際秩序の安全をどう取り戻すか。世界では今、大きな試練に直面している」と書き出し、「過激派組織『イスラム国』によるパリでの無差別テロは、国際社会に大きな衝撃を与えた。テロの拡散と、中東からの難民の激増を受けて、欧州や米国で排他的な動きが強まっている」と解説する。


 さらに「ロシアのクリミア併合は長期化し、中国が南シナ海で人工島の軍事拠点化を進めるなど、力による現状変更の試みもやまない」と付け加える。そのうえで「自由や平等、法の支配といった共通であるべき価値観が揺らぎ、世界は分断へと向かっているかのようだ」と指摘する。ここまでは大体、朝日の社説と同じ展開である。


 この後、読売の社説は「国際秩序が崩壊すれば日本の安全も脅かされる。危機感を強めて向き合わなければならない」とストレートに安全保障論を主張する。それなりに納得できそうでもある。


 さらに「『イスラム国』の脅威を除去し、暴力行為を封じ込める『テロとの戦い』に勝利しなければ、世界の未来はない」「震源地であるシリアの内線終結へ、米欧露、トルコなど関係国は、軍事作戦と体制移行をめぐる協調を急ぐべきだ」と具体的に訴える。


 ここまで来ると、やはり朝日の社説とは違い、かなり現実的だ。ただこれが行き過ぎると、「戦争行為」そのものを正当化する過激な主張になりかねない。そこは読者がしっかりと見据えてかかる必要がある。


 読売は朝日が社説で取り上げていないこの夏の参院選について触れている。「参院選は、安倍首相がより長期的な安定した政権を維持できるかどうかを占うものとなる」と解説し、「自民党が単独過半数を占めれば27年ぶりだ。しかし、近年の自民党の復調は、連立を組む公明党との選挙協力に支えられている面が強い。勝利しても決して楽観できる情勢ではない」と分析している。


 自民党好きな読売が、自民党に発破をかけているようにも受け取れる。そこが気になる。


 ここまで朝日と読売を読み比べて分かることは次のようなことだと思う。日本が、内政外交ともに「分断」を解消する努力を怠らずに進め、各国が協力して国際秩序を維持していける場や雰囲気を作ることが必要だということである。


 今回は朝日新聞と読売新聞の社説の比較で終わりにするが、ひとりのジャーナリストとして今年も新聞各社の社説を読み比べて世界情勢や日本社会の問題点を把握し、日本の歩む方向を探っていきたい。(沙鷗一歩)