流通業界で「なぜ?」と首を傾げたくなる不思議なトップ人事が相次いだ。ひとつはセブン&アイ・ホールディングス傘下のイトーヨーカ堂の社長人事であり、もうひとはファミリーマートとユニーグループ・ホールディングスの統合後のコンビニエンスストア新会社の社長人事である。


 ヨーカ堂はすでに70歳を過ぎた元社長が返り咲いたし、新生「ファミリーマート」の社長には伊藤忠商事出身の現社長・中山勇氏ではなく、ライバルであるローソン社長の玉塚元一氏と同じ釜の飯を食った企業再生会社社長の沢田貴司氏が就任したからだ。ヨーカ堂にしても、ファミマにしてもそれぞれ事情があってのトップ人事とみられるが、その舞台裏を覗いてみると——。


 まずは今年正月早々に発表されたヨーカ堂のトップ人事。戸井和久社長に代えて元社長の亀井淳氏が返り咲いた。戸井氏は食品畑が長く、社長就任前からエースと目されていた人。満を持しての登板だったが、丸2年を経過しないでの降板となった。本人からの辞任申し出があったためとセブン&アイでは説明しているが「業績不振の責任をとった」(関係者)というのは明白だ。ヨーカ堂は2015年3〜11月期決算で144億円の営業赤字を計上、業績不振に歯止めがかかっていないからだ。


 代わって登板することになった亀井氏は今年で71歳。現在モール・エスシー開発というショッピングセンターやヨーカ堂のテナント導入・管理などを担当する会社の会長を務めており、いわば「上がり」のポスト。もちろん、実力があれば年齢は関係ないという見方もあるが、異例の再登板であることは確かだ。今回の人事では「ヨーカ堂は社長候補が育っていないのか」(あるスーパー幹部)という声も聞こえてくる。


 いったん社長を退いた亀井氏をあえて再登板させる狙いは何か。巷では「亀井氏の老練さに期待しているのではないか」という指摘がある。


 というのも、セブン&アイでは、モノ言う株主として知られる投資ファンドの米サード・ポイントに株式を大量に保有され、ヨーカ堂の店舗閉鎖やセブン&アイからの切り離しなどを求められている。それに対応したか否かは定かではないが、昨年不採算店40店の閉鎖を発表している。


 亀井氏自身ヨーカ堂の社長を務めた経験から店舗の状況はよく知っているはず。閉鎖にあたっては地元との折衝や店舗従業員の雇用問題など処理すべき課題は山ほどある。老練さでそうした課題を円滑に処理することを託されたのではないかという説。さらに、最近まことしやかに流れているのが米ウォルマートによるヨーカ堂買収説だ。


 ウォルマートも西友を買収して日本に乗り込んだはいいが、以降鳴かず飛ばずの状態。ヨーカ堂を買収すれば売上高で2兆円を超える規模になる。「セブン&アイもヨーカ堂を切り離せば株価は上がる」(証券アナリスト)と言われており、セブン&アイ総帥の鈴木敏文会長もその可能性を昨年ほのめかしている。ただヨーカ堂はあくまで祖業。創業者である伊藤雅俊氏も大株主としてにらみを利かせている。そのあたりをどうクリアするかの関門はあるが、温厚ながらタフな亀井氏を起用してウォルマートとの交渉に当たらせる人事といったら言い過ぎか——。


 今ひとつ不思議な人事は、ユニーとファミマ統合後のコンビニ会社「ファミリーマート」の社長にいきなり企業再生会社社長の沢田貴司氏を起用した人事だ。もちろん、沢田氏自体、伊藤忠商事時代から小売業に近いポジションにおり伊藤忠退社後もファーストリテイリングの副社長、さらにファストリ退社後も自ら企業再生会社を立ち上げ、ロッテリアの再生などを手掛けており流通には精通している。


 しかし、伊藤忠出身の中山勇氏がファミマ社長として落ち度のない経営をしている。中山氏を差し置いて沢田氏を社長に起用する背景には何があるのか。あるコンビニ関係者はこう自説を披露する。「沢田氏のやっていた企業再生は、まず人心掌握が大事。ファミマに吸収されるサークルKサンクスの社員や加盟店は敗北感が強い。それを鼓舞させモチベーションをどう高めるかを沢田氏は託されたのではないか」。


 コンビニは加盟店ビジネスゆえ、1店1店のオーナーの意識を高める作業が大事。そうした仕事ならコンビニ業界やコンビニがどういう仕組みで回っているかをよく知らなくてもできる。沢田氏の企業再生ノウハウに期待しているという見方だ。


 統合後の持ち株会社の社長になる上田準二ファミマ会長も「コンビニは1万8000店規模になり経営体制、海外事業の広がりなど中山氏がひとりでマネジメントするのはエネルギーがいる。しかもHDも補佐してもらわなくてはならないから、沢田氏を起用した」としており、統合後も中山氏が副社長ながら主導的な役割をする様子を示唆している。統合にあたって人の意識改革を沢田氏に期待しているようなフシはある。


 ファミマはかつてエーエム・ピーエム・ジャパンと統合し、数百店規模でファミマへ看板替えを行った。今回はサークルKサンクス6000店以上の看板替えであり、前回の比ではない。やはり加盟店の説得、意識高揚が一番の課題。それを沢田氏が受け持つとみるのが自然だ。流通で相次いだ一見不思議な人事も舞台裏を覗くと、それなりに考え抜かれた人事であると言えそうだ。(原)