週刊新潮が「創刊60周年記念」と銘打って、力の入った特集号を作っている。年明けから文春の後塵を拝してきた状況に、忸怩たる思いもあるのだろう。さまざまなスキャンダルを暴いてきた実績では、自分たちも決して引けを取らない、という対抗心が滲んでいる。


 その巻頭を飾るのは、《永田町の黒幕を埋めた「死刑囚」の告白》と題したスクープ連載の第1弾。いささか古い話であり、現在の政治状況を揺るがすインパクトには欠けるが(連載の展開次第では、話が変わってくる可能性もある)、相当に取材に手間暇をかけた労作であることは間違いない。


 1995年、細川護熙元首相の側近を通じて旧新進党関係者に多額の資金を撒き、高位の比例順位を得て参議院に当選した友部達夫という人物(故人)がいた。だが、当選した翌年、友部氏が理事長を務める「オレンジ共済組合」が高利の金融商品で約100億円もの資金を集めておきながら、その大半を流用してしまっていたことが発覚する。共済組合は倒産し、友部議員も97年には詐欺容疑で逮捕されてしまった。


 この「オレンジ共済事件」で、友部氏の政界工作を担った斎藤衛というブローカーが97年、国会で証人喚問を受けている。ところがその後、約1年半を経て、この斎藤氏は謎の失踪を遂げる。今回の新潮の記事は、別件のある殺人事件で死刑判決を受け、服役する暴力団組長が、斎藤氏を自ら殺害したことを告白した、とするスクープ記事である。


 新潮は、この組長とのやり取りを経て、その配下にいた元組員から斎藤氏の遺体を埋めた埼玉県内の山林までほぼ特定しているが、組長から同様の証言を得たはずの警察はなぜか、未だに裏付けの捜査に動かないという。


 記事はさらに、この組長・組員のコンビが、さらに別の殺人でもうひとつ、別の遺体をやはり山林に埋めたことも明らかになった、という思わせぶりな終わり方で、連載の第2話へと話をつないでいる。


 裏社会の生々しい事件の発掘だが、この手のニュースが“玄人うけ”のレベルから、一般社会の大ニュースになるか否かは、“表の世界”との関わりが暴けるか否か、にかかっている。今回のケースで言えば、事件の背景に何らかの形で、政治家たちの姿が浮き彫りにできるのかどうか、という点である。


 今回の連載1回目では、斎藤氏の殺害は、あくまでも元組長との間の金銭トラブルによるものだった、と説明されている。警察はなぜ、裏付け捜査に動こうとしないか、もうひとつの殺人とはいったい何なのか。“裏社会の話”のままであれ、興味を引くストーリーではあるのだが、次週以降の展開が期待される報道である。


 今週の新潮にはそのほか、過去60年のさまざまな記事にまつわる特集があり、新潮のスキャンダル報道で煮え湯を飲まされた、「みんなの党」元代表・渡辺喜美氏やタレントのみのもんた氏、猪瀬直樹・元東京都知事などに、「祝辞と愚痴」を語らせるワイド特集も組まれている。


 片や、今週の文春は、神戸連続児童殺傷事件の「元少年A」に対する直撃取材を巻頭記事に掲げている。記者の直撃に怒り狂う「A」の描写がすさまじいが、基本的には「住所を割り出した」「直撃した」というだけの話である。年明け以来の特大スクープ連打も、ここに来てようやく小休止した形だ。


 それでも、ネットの書き込みでは、「今週の文春は」と発売前、多大な関心が集まっていた。何ひとつ伝聞情報もないままに週刊誌の発売日がこれほど注目されるケースは、過去ちょっと記憶がない。そうそう毎号大スクープがあるはずもなく、どこかで“通常運転”にならざるを得ないのだが、何にせよ、業界に活気が蘇ることは喜ばしい。
 
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三山喬(みやまたかし) 1961年、神奈川県生まれ。東京大学経済学部卒業。1998年まで13年間、朝日新聞記者として東京本社学芸部、社会部などに在籍。ドミニカ移民の訴訟問題を取材したことを機に移民や日系人に興味を持ち、退社してペルーのリマに移住。南米在住のフリージャーナリストとして活躍した。2007年に帰国後はテーマを広げて取材・執筆活動を続け、各紙誌に記事を発表している。著書は『ホームレス歌人のいた冬』『さまよえる町・フクシマ爆心地の「こころの声」を追って」(ともに東海教育研究所刊)など。