年明けからの文春の破竹の勢いに、他の週刊誌も刺激され、業界全体が活気づいている。少なくとも、週刊新潮の誌面を見る限り、そう感じる。
今週は、“ゲス川谷”との不倫騒動で芸能活動休止に追い込まれたタレント・ベッキーの問題で、所属するサン・ミュージックの担当マネージャー、もしくはその周辺の取材に成功し、マネージャーと両当事者の間の「その後の経緯」を詳しく報じている。一部報道では、ベッキーは別れを拒んでいるように伝えられもしたが、実際には文春の2本の記事を見て冷静さを取り戻し、1月12日を境に2人は絶縁しているという。
人知れず手がけていた2つの殺人事件を告白した死刑囚にまつわる連載は、今回が第2話。新たに報じられた2つ目の事件も、ニュースバリューという点では、不動産トラブルをめぐる一種“裏社会的な事件”で、一般社会へのインパクトはさほど強くないものの、先週の報道をきっかけに、事件を放置していた警視庁が急遽、捜査に動き出す変化も現れたという。正式に立件されるようなら、新潮の独自ネタは各媒体があと追いする「スクープ」となり、文春にも一矢報いた格好になる。
片や文春の今週の目玉は、野球賭博への関与で先に球団を追われた元巨人軍投手・笠原将生氏の独占インタビューだ。また、TBSニュース23の膳場貴子キャスターの産休をめぐるインタビューも掲載した。
今週は新潮と文春、そして週刊ポストが3誌横並びで、参院選自民党比例候補となった元SPEED今井絵理子の交際相手が、中学生を含む未成年の売春を斡旋した容疑で昨年3月に逮捕されていたことを報じた。
まさにスキャンダルとあれば右も左も容赦しない、そんな週刊誌ならではの切れ味が全体として久々に蘇ってきた感じもする。ただ、やはり保守系の文春・新潮両誌には、現政権に対する本質的な批判や、行きすぎた右傾化潮流をたしなめる報道に、依然として及び腰でいる印象を禁じ得ない。
例えば、文春はせっかく、膳場キャスターのインタビューに成功しながらも、この3月、同じ番組の岸井成格氏や、テレ朝・報道ステーションの古館伊知郎氏、NHK・クローズアップ現代の国谷裕子氏と、政府に手厳しいキャスターが軒並み番組を降板する異常事態となり、少なくとも海外メディアからは政権による報道への圧力問題として報じられていることに一切触れようとしない。
安倍首相と親密なことで知られる元外務官僚・宮家邦彦氏による新潮のコラムでは、アメリカ大統領選におけるトランプ旋風を「情報化社会が生んだ共和党の疫病神」と批判しながらも、実は社会に不満を持つ人々の憎悪が人種差別的な排外主義として現れる傾向はアメリカのみならずヨーロッパや日本にも見られる世界的な潮流であることには、口をつぐんでいる。日本に置き換えれば、こういった階層が現政権の強固な支持基盤にもなっているからではないのか。
決して右翼的思想に凝り固まるわけでなく、是々非々の論調をもって任ずるなら、そろそろこういったイデオロギー絡みのテーマでも、両誌はケースバイケース、目に余る部分では、非は非として報ずべき段階に来ているように思う。
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三山喬(みやまたかし) 1961 年、神奈川県生まれ。東京大学経済学部卒業。1998年まで13年間、朝日新聞記者として東京本社学芸部、社会部などに在籍。ドミニカ移民の訴訟問題を取 材したことを機に移民や日系人に興味を持ち、退社してペルーのリマに移住。南米在住のフリージャーナリストとして活躍した。2007年に帰国後はテーマを 広げて取材・執筆活動を続け、各紙誌に記事を発表している。著書は『ホームレス歌人のいた冬』『さまよえる町・フクシマ爆心地の「こころの声」を追って」 (ともに東海教育研究所刊)など。