ネットと店舗を融合した販売戦略である「オムニチャネル」が大手流通業を中心に進み始めているが、先駆的な立場のセブン&アイ・ホールディングスの戦略が批判されている。セブン&アイはネットで注文した商品をセブン-イレブン・ジャパンの店舗で受け取れる利便性を売り物にしている。しかし、セブン-イレブンの店舗で受け取れるのはセブン&アイHDグループの商品を中心に扱うサイト「オムニセブン」と「ユニクロ」くらいで、それ以外「アマゾン」などネット通販で購入した商品は受け取れない。これに対しファミリーマートやローソンは、アマゾンや楽天の商品受け取り拠点として機能、集客効果につなげている。果たしてこのコンビニのオープンとクローズドの戦略、どちらに軍配が上がるのか。


「オムニセブンで購入した顧客の約7割がセブン-イレブン店舗で受け取り、このうち6割が店内で買い物をしている。セブン-イレブンの全店平均客単価は608円だが、ネットで購入した商品を店頭で受け取った顧客の単価は671円」と、オムニセブンの効果を話すのはセブン&アイ村田紀敏社長だ。


 昨年11月から本格展開を始めたオムニセブン。本格化から約5ヵ月、これまで目に見えた実績についてのアナウンスがないこともあって巷間、「本当にうまくいくのか」「いったいどのくらい効果が出ているのか」などと批判が噴出していた。村田社長自身、イトーヨーカ堂の構造改革の会見で「(オムニセブンが)うまくいくのかという意見があることは承知している」などとしたうえで、今回改めて一部ではあるが、実績が出ていることも強調した。


 だが、巷間、「本当にうまくいくのか」と懐疑的にみられる最大の理由がセブン&アイの進める“クローズド”な戦略にあるのではないかとみられている。セブンのオムニチャネルは、セブン-イレブンの全国約1万9000店の店舗網を開放せず、店舗受け取り商品をグループ企業に限定し、顧客を囲い込む戦略だ。


 しかし、オムニセブン自体、グループのイトーヨーカ堂、そごう・西武などの商品を軸に据えた限定戦略となっているため、品ぞろえ自体が180万点しかなく、アマゾンの1億点や楽天の2億点に比べ極めて少ない。


 楽天はほとんど外部からの出店者で形成するモール形式、アマゾンも一部モール形式で出店者が多く重複商品があるし、もちろんオムニセブンのように独自商品を中心にして販売するという戦略があることもわかる。しかし、消費者の商品の受け取り拠点としてセブンの店舗は選択肢にならないのだ。


 オムニセブンの場合、ネットのサイトでの注文が少ないことが、セブン-イレブン店舗での受け取りがそう多くない理由のひとつとみられているが、これではせっかく受け取り体制を整えた加盟店から不満の声が上がってもおかしくない。


 これに対し、ライバルであるローソンやファミリーマートは自社のネットを活用した物販、EC事業の規模が小さいこともあって、アマゾンや楽天と協業、オープンな商品の受け取り拠点となっている。


 アマゾンや楽天はこうしたコンビニを中心に3万拠点以上の受け取り拠点を設けている格好になり、商品数や受け取り拠点数でも消費者の選択肢が多く、今のところオムニセブンに対し、利便性では圧倒的に勝っていると言わざるを得ない。


 セブン&アイがオムニチャネルでニッチ(隙間)を狙うプレイヤーをめざすなら、1万9000店の店舗網は宝の持ち腐れだし、やはり流通の雄はアマゾンや楽天と伍して戦う戦略を立ててほしいところだ。


 セブン-イレブン店舗がアマゾンや楽天の受け取り拠点として開放されれば、それこそ消費者の選択肢は圧倒的に増え、加盟店も来店客の増加になり本部も潤うのではないかと思われる。


 セブン&アイでは電子マネーの「ナナコ」を発行しているが、こちらも流通大手、ライバルのイオンが「ワオン」でオープンな戦略を組みファミリーマートと提携したり、地方の商業者と提携したりしているのに対し、セブン&アイは「ナナコ」をやはりグループ企業中心に据えた設計になっており、どちらかというとクローズドな戦略だ。


 この結果、これまでのところナナコの発行枚数が4200万枚、取扱店が18万6000ヵ所に対し、ワオンは5300万枚、22万5000ヵ所と枚数で1000万枚以上ワオンが差をつけている。セブン&アイがローソンやファミリーマートでナナコを使えるように頼み込んでも、ライバルのコンビニがすんなりと受け入れるとも思えないが、外部との連携で積極的に拡大しているのはワオンのほうである。


 もちろん、こちらも顧客をグループ内に囲い込む戦略があるが、消費者にとっては互換性のない電子マネーを複数所有することになり、不便極まりないのである。


 コンビニはすでに商品供給だけでなく、金融機能やサービス機能を持つ社会的なインフラとなっているのは周知の事実。その自覚を持って、これは共通化したほうが消費者の利便性が高まると判断できそうなサービスについては、小異を捨て大同についてほしいものである。もちろん、今回のオムニチャネルでは真っ先に公共のインフラとなってもらいたいものだ。(原)