北朝鮮が2月7日、国際社会の制止を無視して長距離弾道弾ミサイルの発射実験に踏み切った。1月の核実験続く暴挙である。


 北朝鮮のこの暴走をどう押さえ込んだらよいのだろうか。今世紀最大級の難問だ。


「1月6日、北朝鮮が事前通告も行わず、初の『水爆実験』に踏み切ったことを明らかにした。『水爆ではなくブースト型(強化型)原爆ではないか』とか『実験自体の成功も疑わしい』という見方も出た」


 北朝鮮がミサイルを発射したのは、前回のこの欄でこう書いた矢先のことで、その原稿は次のように続いた。


「しかしながら北朝鮮はこれまでに3回も核実験を行っている。その成果で核兵器の小型化や高性能化が着実に進み、核兵器を弾道ミサイルに搭載する技術力が上がってきている。イスラム国ばかりでなく、脅威は多い」


 金正恩(キム・ジョンウン)第1書記は不敵でかつ大胆であり、イスラム国と並ぶ国際社会の脅威である。今回のミサイル発射は、1月6日の4回目の核実験に対する国連安全保障理事会の制裁決議が出るのを待たずに強行された。中国とロシアが強力な制裁に慎重なことにつけ込んだのだろう。


 北朝鮮はさらに多くの打ち上げを予告した。韓国政府は5回目の核実験や潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)発射など追加挑発の可能性を警戒している。


 ミサイル発射の翌日8日、日本の新聞も社説で厳しい制裁と国際社会の協調を求めるといった論を展開した。まずはその社説から見ていこう。


■いずれの社説も「画餅に帰す」


 結論から言ってどの新聞の社説も、北朝鮮の暴走を押さえ込む合理的な方法を述べていない。はっきり言ってどの社説も具体性に欠け、煮え切らないのである。


「中国を含む国際社会が重ねて発した自制の要求を、金正恩政権は完全に無視した。国際秩序への挑戦に対し、安保理は決然とした対処を急ぐべきだ」と主張するのは、朝日新聞の社説である。


 そのうえで朝日には珍しく、「日米に加え、ロシア外務省も『国際法の規範を公然と無視している』とただちに非難した。核実験以降、安保理の制裁論議を滞らせてきた常任理事国として、中国の責任は重い」と中国に冷たく当たる。


「朝鮮半島と東アジアの安定を真剣に憂慮しているというならば、中国は平壌に対し、明確な影響力を行使すべきである」


「じわじわと安保環境を危うくする北朝鮮の暴走の連鎖をどう断つか。安保理と並行して日米韓と中ロは、6者協議の枠組みなどあらゆる場を用いて議論を活発化させるべきだろう」


「国際社会が北朝鮮問題に取り組むうえで日本の役割は重い」


 要するに朝日の主張は、中国やロシア、アメリカ、日本などが全面的に協力し、国際社会として北朝鮮の暴挙を封じ込めろというものである。それはそれで正しいのだが、具体性に欠け、画餅になりかねない。


 次に産経新聞の社説(主張)。


「度重なる安保理決議により、北朝鮮は核実験と『弾道技術を使った全ての発射』を禁じられているが、その効果に限界があることを示している。実効性のある、より強力な制裁を新たに科すことが急務である」


 ならば産経の言う「実効性のある制裁」とは何なのか。そう考えながら社説を読み進めると、ひとつは「北朝鮮の暴走を止められない大きな要因として、安保理常任理事国である中国、ロシアが北を擁護し、厳しい制裁には慎重な姿勢を変えないことがある」と中国とロシアの対応の甘さを挙げ、中ロに厳しい制裁を求めている。


■日米韓の協力は効果あるのか


 もうひとつが産経お得意の「集団的自衛権」だ。「北朝鮮が、核弾頭の搭載が可能な大陸間弾道ミサイル、中距離弾道ミサイルの開発を目指していることは、米国にとって安全保障上の重要な問題だ」「北朝鮮の暴挙は、とりわけ集団的自衛権の行使容認を含めた強固な日米同盟が欠かせないことを浮き彫りにした。日米韓の枠組みがより重要さを増している」などと述べた後で、産経社説は「集団的自衛権なしでは、同盟国間の密接な連携に基づき、弾道ミサイル防衛を強化していくことは困難だからである」と言い切っている。


 どうしてここまで集団的自衛権を協調する必要があるのか。日米が軍事的に関係を強めれば強めるほど、中国やロシアはそっぽを向く可能性が高い。それどころか北朝鮮に肩入れする危険性だってあるだろう。産経新聞は何を考えているのか分からない。


 毎日新聞の社説も「暴走止める体制を作れ」との見出しを掲げ「制裁は必要だが、それだけでは北朝鮮の暴走を止められない。より根本的には、北朝鮮を多国間の協議に参加させ、冒険主義的な行動を放棄するよう誘導する必要がある」と主張する。しかしどうやれば北朝鮮を誘導できるかその方法が具体的に示されていない。


 東京新聞に至っては「日米韓そして中ロは協調して、金第1書記に強硬策では経済発展と国家再建は難しいと伝え続けるべきだろう」と生ぬるい主張を繰り返している。


 ところで気になるが、国連安全保障理事会の協議だ。25日(現地時間)に米国の国連代表部が、これまでにない厳しい内容の制裁決議案を提出し、ニューヨークの国連本部で記者会見した、と外電が伝えた。問題の決議案は、米国と中国が内容を検討し、両国で合意したという。ロシアなど他の主要国がどう出るかが注目されている。その決議案の一端は①北朝鮮に出入りする全ての貨物を各国が港や空港で検査する②北朝鮮の銀行の支店の開設を禁止するなど金融取引の大幅な規制をとる③違法行為の疑いがある北朝鮮の外交官らを追放する-などとなっている。新聞各社の社説ではないが、真に実効性のある制裁にしてほしいものである。(沙鷗一歩)