「売れる記事」と「読みごたえのある記事」は、一致することもあるし、そうでないこともある。いずれにせよ、深い取材が不可欠だというポイントは、双方に共通する。記者たちが足を使い、人を訪ね歩く労力こそ、ネットの無料情報と有料の紙媒体の記事に一線を画す大前提なのである。


 昨今の週刊誌が文春とその他の“一強多弱”になってしまっている状況は、結局のところ、この“手間暇”の差異に他ならない。良質な記事や特ダネを狙うためのコストを惜しむか惜しまないか、その一点の違いである。取材に手を抜いた薄い記事ばかりでは、雑誌は売れないし、売れなければ取材コストもかけられない。腕のいい書き手も集まらなくなる。少なからぬ雑誌が今、その悪循環にはまり込んでしまっている。


 スクープには“時の運”もあり、現在の文春はちょっと異常なまでの好循環にある。だが、何にせよ取材に手間暇をかければ、その努力は記事のクオリティーとして読者に伝わるし、時に売上げにつながるスクープも転がり込む。まずはその土俵に上がらなければ、話は始まらない。


 文春編集長の言葉を借りれば、多くの雑誌が今、“企画モノ”を中心に誌面を作ろうとしてしまっている。低コストで独自色を出す苦肉の策である。往々にして“お手軽さ”が見えてしまう手法だが、それでも成功例もないわけではない。今週の週刊ポストには、そんな企画モノの良記事が載っていた。


《前代未聞の当事者座談会!「オレたち認知症!」》なる記事である。町田市のデイサービスセンターに通う3人の認知症患者が、率直に自らの病を語っている。3人のうち2人は、職場を定年退職する前から仕事に支障をきたす症状が現れ、残る1人は退職後の事業失敗によるうつ病から認知症が始まった、と振り返る。過度な監視や規制を強いられない町田のこの施設と出会うまで、家族から外出を禁じられていた人もいた。


 通所者の自主性を重んじるこの施設でストレスが軽減されたのか、3人の口ぶりは予想外に前向きで明るい。同じ認知症の患者同士、一緒にカラオケを楽しんだり、日常の不便を克服する工夫を話し合ったりもする。家に引きこもらず、可能な範囲で他者や社会との接点を持ち続けることがいかに大切か、改めて感じさせてくれる記事である。


 ただ、全体として言えば、今週も文春の誌面は圧倒的だった。《党本部は「文春の取材は受けるな」と箝口令 「保育園落ちた」政局 自民ヤジ議員を連続直撃!》《フジテレビ“新ニュースの顔”の正体 ショーンKの嘘》《舛添都知事“大名視察”「血税5000万円」の使い途》《ゲス川谷懺悔告白第2弾》《「NEWS23」抜擢から電撃退社まで TBS小林悠元アナ初告白 「私は適応障害でした」》……。


 今週のワイドショーで大騒ぎとなったショーンKこと、経営コンサルタントで人気コメンテーターのショーン・マクアードル川上氏の壮大な経歴詐称疑惑をはじめとして、重量感のある記事が目白押しである。


 ちなみにこの経歴詐称という問題。過去はどうあれ現在の人物評価とは無関係だ、という言い方で軽く見る人がいる。筆者はそうは考えない。プロフィールの大半がウソに塗れている川上氏は別格だが、より限定的なウソであれ、キャリアの粉飾に手を染める人は、虚言への心理的抵抗が限りなく低い人だと私は思っている。同じウソを何百回、何千回と繰り返してきた人に、誠実な部分もある、など考えることは、到底不可能である。


 ともあれ、すでに3ヵ月目に突入した文春の独走は、果たしていつまで続くのか。他誌の奮起を期待したい。

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三山喬(みやまたかし) 1961 年、神奈川県生まれ。東京大学経済学部卒業。1998年まで13年間、朝日新聞記者として東京本社学芸部、社会部などに在籍。ドミニカ移民の訴訟問題を取 材したことを機に移民や日系人に興味を持ち、退社してペルーのリマに移住。南米在住のフリージャーナリストとして活躍した。2007年に帰国後はテーマを 広げて取材・執筆活動を続け、各紙誌に記事を発表している。著書は『ホームレス歌人のいた冬』『さまよえる町・フクシマ爆心地の「こころの声」を追って」 (ともに東海教育研究所刊)など。