4月2日に開かれた「日本眼科記者懇談会」に参加して興味深い話を聞いた。


 テーマは、日本眼科学会が取り組んでいる「ビッグデータ・AI事業」。


 AMED(日本医療研究開発機構)から2017年度から3年間で「ICT技術や人工知能(AI)等による利活用を見据えた、診療画像等データベース基盤構築に関する研究」事業の委託を受け、並行で取り組んできた6学会の先陣を切って、匿名化した診断名付きの画像データを大学病院などの電子カルテから自動的に学会のデータベースに送信するシステムが稼働し始めたという。


 事業に参加しているのは23の大学病院と1健診機関で、すでに4大学病院で自動送信システムが動いており、年度内に残り20施設も稼働する計画だ。


 正確な診断名付きの画像を大量に集められれば、それを深層学習にかけることによって、逆に画像データから疑わしいものだけピックアップしてくれるような高精度AIを産み出せると期待される。それは最近なら誰でも知っていることだが、データを集めるために現場の負担が増えるようでは持続可能性に欠ける。それが自動的に集まるというのだ。


 しかも、一度仕組みが出来てしまえば、データベースに集約できるものは画像だけに限らない。条件の設定次第では、介入と結果なども集められるので、研究開発を強力に推進することになり、それは日本から世界に通用する医療技術を産み出すことにつながるかもしれない。


 ちなみに、AMED事業の委託を受けた他の5学会は、日本消化器内視鏡学会、日本病理学会、日本医学放射線学会、日本皮膚科学会、日本超音波医学会だそうだ。これらのなかで、なぜ眼科学会が先陣を切れたのか、取り組み方の手柄話を聞かされるのかと思ったら、違った。


 電子カルテは、診療科ごとに部門カルテがあるのが一般的だそうだが、眼科に関しては主要メーカーが4社しかなくデータ形式の統一が容易だったというのだ。インフラづくりの担当者としてプレゼンした柏木賢治・山梨大学眼科准教授は、「他の部門はメーカーが乱立していてデータ形式もバラバラなので、さぞや大変だろうと思います」と言った。


 電子カルテメーカーが顧客囲い込みのためデータ互換しにくいシステム開発を繰り広げ、世界的に見ても割高のものを医療機関に対して売りつけてきたことは、皆さんもご存じと思う。その後遺症が、こんなところにも出ているのか、と愕然とした。


 すでにビッグデータ収集とAI開発では、GAFAに代表される多国籍企業や官民一体で素っ飛ばす中国勢から周回遅れにされている日本勢とすれば、国民皆保険制度に支えられた均一性の高いデータを集約して精度の部分で勝負するしかないのに、それをこんなくだらないことが邪魔する。


 医療機関を養っているのが国民皆保険制度であることを考えると、インチキによる顧客囲い込み策を企業努力として擁護することはできない。電子カルテデータのコンバーター開発に予算を付けるような悠長なことをするのではなく、一刻も早くデータ形式の統一を図るべきだ。


川口恭(ロハス・メディカル編集発行人)